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<私が今日も走る理由> 1300年で2人のみ! 千日回峰行満行の大阿闍梨 ~塩沼亮潤さん~
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph byAtsushi Kondo
posted2014/04/26 10:30
「人の体って不思議なんだよね」
だが、もちろん精神力だけでは対応できない局面を迎えたこともある。
修行490日目あたりからの10日間では10kg痩せ、1日で下痢は20回以上、小便は出ても真っ茶かこげ茶。道端に倒れ、泣き、必死になってたどり着くような日々の連続になった。
そもそも行の間は摂取カロリーも少ない。出発前に2口で食べられる大きさのおにぎりを2つ、道中の朝5時に参籠所で受け取ったおにぎりを2つ、そして頂上に着いてご飯と味噌汁を口に入れると、下山中にもおにぎりを2つ程度。いずれも梅干し入りだと言うが、それは塩分補給というより腐食防止のためだそうだ。
「人の体って不思議なんだよね」と笑いながら話してくれるものの、行の過酷さの割に食事、そして摂取カロリーが少な過ぎる。
「行を続けているとね、身体が一回りも二回りも小さくなるというか、どんどん萎んでいくのがわかるんです。カルシウムを取らないからか、骨折してギブスを外した後みたいに、骨が細くなっていくんですよ」
「どんどん自分の感覚が研ぎすまされていくんです」
そんな状態にあっても塩沼さんは目の前の1歩を着実に踏み出しつつ、毎年120日という修行期間を俯瞰し、常に己の肉体と対話していくことで、極限状態を乗り越えていった。
「どんどん自分の感覚が研ぎすまされていくんです。非常用の飴を5個ほど腰に巻いていたんですけど、それが何個残っているのかも重さで分かるようになる。睡眠は毎日4時間半でしたが、10分でも少ないと、翌日10分ぶんだけの疲労を感じるようになります。そんなF1カーのように超敏感になった自分の肉体を、どうやって山頂へ持ち上げ、どうやって下ろしていくかばかり考えていましたね。常に同じペースで歩くようにしていましたし、食事のタイミングも変えませんでした」
これはゴールまでの道のりをシミュレーションし、ペース配分を意識しながら、1歩1歩に集中するランナーとよく似ている。途方もなく長く遠い先を目指すとき、論理的な思考と状況分析と、目の前のことをコツコツ実践する力が達成への近道なのかもしれない。