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<私が今日も走る理由> 1300年で2人のみ! 千日回峰行満行の大阿闍梨 ~塩沼亮潤さん~ 

text by

山田洋

山田洋Hiroshi Yamada

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photograph byAtsushi Kondo

posted2014/04/26 10:30

<私が今日も走る理由> 1300年で2人のみ! 千日回峰行満行の大阿闍梨 ~塩沼亮潤さん~<Number Web> photograph by Atsushi Kondo

深夜11時30分に起床、まず滝行を行う。

 千日回峰行の1日は深夜11時30分に起床するところから始まる。「地獄谷」と呼ばれる、南北朝時代の戦争で多くの人が亡くなり埋められた場所に宿坊があり、まず起きてすぐに滝行を行う。

 その後、500段の石段を登ったのちに支度をする参籠所に向かうわけだが、夏ともなればこの1000段の往復だけで汗だくになってしまうほどだ。

 参籠所では、おにぎりが2つ入った片道分のお弁当を受け取り、500mlの水筒に水を入れる。真っ白な死出装束に着替え、草鞋ないし地下足袋を履く。そして途中で行が遂げられなかった場合に自らの首をくくる紐を腰に巻き、自決用の短刀を差す。

 この千日回峰行は、始まってしまえば途中で止めることが許されていない。行を途中で止めることは「死」を意味する。雨の日も嵐の日も、台風、吹雪、猛暑であっても、覚悟を持って吉野・蔵王堂(364m)を出発し、暗闇の山中へと歩む千日の中の一日が始まるのだ。

「大自然の一木一草の中にも真理に繋がるヒントがある」

 一日の前半は、大峯山系の山上ヶ岳山頂(1719m)までの24kmを、激しいアップダウンを越えながらひたすら登る。頂上でご飯と味噌汁を口に入れると、来た道を今度はひたすら下っていく。往復で48km、標高差は1300m以上にもなる。

「大自然の一木一草の中にも真理に繋がるヒントがあって、その花を眺めながら頷き取ってくるのが仏教です」

 そう語る塩沼さんは、道中の118カ所の神社や祠の全てに立ち寄りながら般若心経を唱え、猪、熊、鹿、猿と遭遇し、マムシに注意しながら行じていった。

 もちろん、身支度から身の回りのこと(料理・掃除・洗濯など)を全て一人でこなし、下山してからもお経を唱えることを忘れない。睡眠時間が4時間半ほどだったという1日のスケジュールを、大峯山が開山する5月から9月まで120日続け、同じことを9年間繰り返す。その距離は1000日間で地球1周分4万kmを優に越す。

「朝、目を開けた瞬間から回峰行者としての定めが始まります。しかし、体が思うように動かない日もある。毎日の調子は良いか悪いかではなく、悪いか最悪かのどちらかでしたから」

【次ページ】 痛みを“追い込む”という感覚。

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