濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
川尻達也、満を持してUFCデビュー。
堅実な勝利に隠された、緻密な野望。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2014/01/12 08:11
序盤は不安定なところもありながら、最後は実力を見せつけた川尻。一年ぶりの試合に「今回は本当に怖かった」とブログで語っている。
UFCデビュー戦は、いきなり大会セミファイナルに。
これまでの実績が高く評価され、川尻のUFC初戦には大会セミファイナルが用意された。対戦相手はアメリカのショーン・ソリアーノ。UFCデビュー戦、キャリアはわずか8試合だが全勝と、怖いもの知らずの強みがあった。
久々の試合に加えてオクタゴンデビュー、さらに相手の“若さ”。緊張感と恐怖から、試合序盤の川尻はこれ以上ないほど動きが固かった。いわく「心臓がはちきれそうでした」。遠い間合いからのタックルはたやすく切られ、パンチやヒザ蹴りを被弾してしまう。
だが、そこからベテランならではの落ち着きを見せていく。無理に突っ込むのではなく、相手の打撃に合わせて組み付くとテイクダウンに成功。マウントポジションから的確なパンチを浴びせるとバックを奪う。2ラウンドに入ると、緊張からくる疲労で息を切らしながらも開始50秒でリアネイキッドチョーク(裸絞め)を極め、ソリアーノを失神させた。
出だしに課題は残ったものの、これまでに培ってきた実力をしっかり発揮しての勝利だ。ケージの中だけでなく、初戦の舞台にシンガポールを選んだことから、川尻の“作戦”は始まっていた。
メジャーで勝つ姿を日本のファンに見てほしかった。
UFCで出世街道に乗るには、初戦で確実に結果を出す必要がある。そのために、対戦相手として想定される北米もしくはブラジルの選手にとって移動距離が長く、自身は一度、地元イベント『ONE FC』で試合をしたことがあるシンガポールでの闘いを望んだのだ。
つまり川尻にとって、UFCという舞台は“出場できるだけで嬉しい場所”ではなかった。あくまでタイトルを狙うために契約したのであり、ネット配信の生中継を通じて“メジャーリーグ”で自分が勝つ姿を日本のファンに見てほしかったのだ。
「アイ・ウォント・UFCフェザーウェイト・タイトルショット!」
試合後、川崎宗則を思わせるチャーミングなカタカナ英語でタイトル挑戦を表明した川尻。次戦はアメリカで、ランキング・トップ10に入っている選手と闘いたいとも語った。
「年齢を考えると時間がないんで。最短距離でタイトルマッチにたどり着きたいんです。今年は最低でも3試合やりたいですね」