フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
妖精の可憐さと、雑草魂の根性娘。
今井遥、逆転のソチへ完璧を期す。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAFLO
posted2013/12/12 16:30
復調の手応えを感じながら、ロシア杯では9位。浅田、鈴木、村上の上位陣を逆転してのソチ行きには、全日本で周囲をあっと言わせる演技が必要だ。
食べ物、時差に苦しみ昨季は惨敗だった。
一方で、生活面では苦労した。ダイエットが必須のスケーターにとって、北米は食事の選択肢が少ない。
「サラダでさえチーズやドレッシングが沢山乗っていて、安心して食べられない」
リンクへは自分の運転で通い、慣れない右側通行に気が張りっぱなし。鍼や電気治療がないことで、マッサージでは取り切れない疲労もたまっていく。試合の度にヨーロッパや日本へ移動する時差もきつかった。
「リンクの練習環境は素晴らしかったんですけれど、自分で色んなことを気にしすぎてしまって、スケートに集中出来なくなっていったんです」
昨季は、GPシリーズは5位と8位、そして、全日本選手権は14位と惨敗だった。
「全日本はもう滑っている気がしなくて、どんな演技をしたのか記憶にないくらいです」
そこから1カ月後の国体まで、アメリカに戻らず東京で練習した。専用で滑れる時間はほとんどなく、氷の質も荒れていたが、自分のペースを取り戻すことに専念した。
「とにかく落ち着いて跳ぶということだけをやりました。もとは跳べていたジャンプ。1つ1つ集中すれば大丈夫なはず」
思考回路をプラスに変えられるのが一番の長所。
すると1月の国体ではほぼノーミスの演技で175.83点、鈴木明子を抑えて優勝した。
「なぜこの演技を全日本で出来なかったんだろう」と、悔しさと嬉しさで、涙が止まらなかった。
五輪を控えた今季オフ、生活環境を見直すため日本で練習することに決めた。
「日本のリンクは混んでいるし氷も荒れていて環境は良く無い。でもかえって、試合会場に行くと自分の練習リンクより滑りやすいので、強気になれるかも」
そんな風にうまく思考回路をプラスに変えられるのは、一番の長所だろう。実はジュニアの頃はよく、試合を恐れない不思議な雰囲気から「宇宙人」と言われることもあった。アメリカに行ってから抑えていた自我が、帰国したことで戻りつつあったのだ。