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八重樫、村田、井上の「前座試合」が、
日本ボクシング“いい時代”の証だ! 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph bySANKEI SHIMBUN

posted2013/12/11 10:30

八重樫、村田、井上の「前座試合」が、日本ボクシング“いい時代”の証だ!<Number Web> photograph by SANKEI SHIMBUN

岩佐(左)のいるバンタム級には3人の日本人世界王者がいる激戦区。WBCが山中慎介、WBAが亀田興毅、WBOが亀田知毅。試合後、誰とやりたいかたずねられた岩佐は「亀田興毅ですね」と即答したが、興毅はスーパーフライ級への転向を表明しているため、実現可能性は低いか。

入り方の穏やかさとその後の激しさの落差。

 3回、岩佐が強烈な左のボディを叩き込み、それをきっかけに正確なワン、ツーを顔面にヒットさせた。これでロープ際に詰まった椎野は棒立ちになる。岩佐が攻め込むが、まだスタミナのあった椎野も辛うじてこらえる。この回から岩佐の優勢がはっきりしだした。4回も中盤までは五分だったが、終盤に岩佐が攻勢に出て、優位をつづけた。採点の途中発表でも3人のジャッジすべてが岩佐リードだった。

 岩佐は攻撃に入るときに特徴があった。大げさな構えがなく、スーッと腕が伸びる。いきなり必殺のパンチを繰り出すのではなく、薄いかみそりで相手の皮膚にひと筋浅い傷を引くような入り方。そこから入り込んでいつの間にか圧倒的な攻勢に出て連打を浴びせる。入り方の穏やかさとその後の激しさの落差に幻惑された相手は正体を捕らえ損ねて立ち往生する。

 5回も軽いパンチで間合いを詰め、かみそりの傷を椎野が気にしだしたとき、強烈な左ストレートを顔面に見舞ってダウンを奪った。辛うじて立ち上がった椎野を岩佐は逃さず、それまで見せたことのなかったラッシュで攻めに攻めて2分52秒レフェリーストップでTKO勝ちを飾った。

普通の日のごはんの出来具合が、料理レベルを教えてくれる」

 世界1位とはいえタイトルは日本王座だけという岩佐がこれだけみごとな試合を見せたのは驚きだった。一方、椎野も負けはしたが、テクニシャンに強引なスタイルで立ち向かう試合ぶりには魅力があった。これをメーンイベントで見たとしても、満足度は低くはなかったろう。

「特別なご馳走じゃなく、普通の日のごはんの出来具合がその家の料理のレベルを教えてくれる」

 知り合いの料理の先生がそんなことをいっていたのを思い出した。張り込んで高い材料を買い、誰かのレシピを参考に豪華に作り上げたご馳走は誰の手で作ってもある程度おいしく見える。でもほんとの料理の腕は乏しい家計でやりくりした普通の日のごはんのほうにはっきり表れるというのだ。

【次ページ】 今、ボクシングはいい時代であるかもしれない。

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