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<女子ゴルフ・クライマックス> 森田理香子 「賞金女王へ最後の試練」
text by
月橋文美Ayami Tsukihashi
photograph byToshiya Kondo
posted2013/11/14 06:01
本来恥ずかしがり屋の森田の内面に起きた変化。
他のコーチとの大きな違いは、技術面だけでなく、さまざまな状況のメンタルを知っていること。日本の頂点、世界の頂点を獲る苦しみを実体験している数少ないプレーヤー・岡本だからこそ、今の森田が感じている孤独やプレッシャー、苦しみ、焦り、苛立ち、かすかな喜びまでをも理解できるのだろう。師匠として全幅の信頼を寄せ、その岡本を自身の究極の目標と掲げる森田にとって、これほど心強い味方はいない。
森田は元来恥ずかしがりで人見知りだ。スコアが良くても悪くても連日、報道陣に囲まれる現在の状況は、本音を言えば逃げ出したいほどに苦手なはず。“私を放っておいてくれないかな……”顔にはそう書いてある。
だがシーズン終盤、森田はこんな風に話していた。
「周りから聞こえるいろんな声に、『もう、イヤ~ッ!』ってなっていたんですけど、最近になって“今しか、そして自分しか経験できないことをできている”ことに感謝してます。早い時期から賞金女王とか、言われてきました。ただ独走状態でいるのと、こうやって迫られてるのとでは、やっぱりぜんぜん違う。さくらさんが今回こうやって来なかったら、こんな気持ちになれてなかったし。すごくうまい具合に経験できてる。ちょっと楽しい、って思えるようになったんですよ。そうやって思えるのは、岡本さんに話してもらったり、周りの人たちがそういうふうに言ってくれるから。自分一人やったら『もう、やめてや~っ!』ってなってます(笑)。すごく恵まれてます」
「記念写真の真ん中に行きたい気持ち、すごくあります」
乗り越えていくのは自分自身。自分の現状を受容できれば、きっと事態は好転していく。
泣いても笑ってもあと3試合。シーズンは終幕の時へ向け加速する。前半の大活躍から、いつしかツアーで一番の大ギャラリーを連れて歩く存在になった森田。不思議なことに、それは調子が落ちている今でもあまり変わらない。スウィングの美しさ、しなやかさ……ゴルフに真摯で、ちょっぴりシャイな人柄に多くのファンが魅せられているからだろう。
開幕戦の勝利は、横峯をプレーオフで破ってのものだった。シーズン最後の2人の“サドンデス・マッチ”は、もっともっと厳しい戦いになるに違いない。無責任にそれを楽しむ衆目の中で、新女王がベールを脱ぐ。
最終戦・ツアー選手権リコーカップでは、例年、表彰式の後に出場選手全員の集合写真撮影が行なわれる。中央にしゃがむのは、大会優勝者と、賞金女王。
「記念写真の真ん中に行きたい気持ち……すごくあります。行けるように頑張ります」
11月初めのトーナメント会場で、こっそりとしかしきっぱりと、森田が言った。