ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
身軽な立場のハイカーが考えた、
「守るもの」と「幸せ」の意味。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/11/02 08:00
全米で最も深い湖・クレーターレイクで一緒に歩いたGokuさんと記念撮影。親子に間違われた。
人混みの中に、見慣れた姿を見つける。
人混みの中に見慣れた姿を見つける。日本人のGOKUさんだ。Ashlandの町で僕と別れた後、彼は腰の痛みが気になり、もう1日休みをとったのだという。こんなに早く追いついてしまうとは思わなかったが、やはり嬉しい。
大変失礼な話だが、GOKUさんは英語がまるで喋れない。ローマ字読みすらおぼつかない様子だ。メキシコ国境をスタートした頃は、他のバックパッカーとのコミュニケーションを極力避けていたようにさえ見えた。
しかし、僕がビジターセンターで目にしたのは、多くのバックパッカー仲間に囲まれ、目と手をつかって楽しそうに「会話」をしていた彼の姿だった。そんな姿が、少し微笑ましい。
僕はというと、初対面のバックパッカーばかりで、名前など一から自己紹介するところからだった。自らを「シャシンカ」と名乗っている自分が、やはりなんだか可笑しい。
そうそう、シエラネバダに入る直前に知り合ったレズビアンのカップルにも再会することができた。独立記念日前、アメリカの最高裁が同性婚を認める判決を出したというニュースを知り、僕は彼女たちのことが気になっていたのだ。彼女たちも、町に降りた時に吉報を知らせる大量のメールを確認し、コトを知ったと笑う。
いつだって、トレイルは平和だ。
「親子なのかい?」「違うんだ。残念なことにね」
その日は公園のキャンプ場にGOKUさんと泊まり、翌日、二人で湖を見ながら歩きだした。
こうして二人で歩くのは、メキシコ国境を歩き始めた初日以来だ。お互いに写真を撮り合いながら歩いて行くと、逆側からこちらへ歩いてくるバックパッカーが声をかけてくる。
「親子なのかい?」
「違うんだ。残念なことにね」
僕は笑って返事をする。