ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
身軽な立場のハイカーが考えた、
「守るもの」と「幸せ」の意味。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/11/02 08:00
全米で最も深い湖・クレーターレイクで一緒に歩いたGokuさんと記念撮影。親子に間違われた。
Tedからのメールに、一人小さく笑う。
彼らしさに溢れたメールを見て、一人小さく笑う。僕は翌日を休みに充て、二人と食事をしたりして有意義に過ごした。アメリカに来て初めて食べた日本食レストランは、思いの外美味しかった。
Tedは毎年リトルリーグのワールドシリーズをテレビで見ているらしく、今年は日本人チームが優勝したのだと教えてくれた。
「スポーツは嫌いなんだが、リトルリーグだけは好きでね」
いつか子どもが苦手だと話していた彼、相変わらずの天邪鬼っぷりだ。そして、スポーツ専用チャンネルとはいえ、小学生の野球の試合が中継されているという事実に驚く。さすがアメリカだ。
「Ted、この間別れた時、泣いていたでしょ」
翌日は彼にトレイルまで送ってもらう。車中で僕はそれとなく言ってみる。
「そういえばTed、この間別れた時、泣いていたでしょ」
彼は僕の質問には答えず、真っすぐに伸びた道路を見ながら言う。
「俺がお前を送る日は、いつも雲行きが怪しいな」
予め連絡をとっていたGOKUさんと登山口で落ち合い、おつかいとして頼まれていたタバコと食糧を渡す。GOKUさんもTedの家にはお世話になっており、再会を喜ぶ。もっとも、ほとんどミホコさんを通訳としての会話だったのはご愛敬だろう。
Tedは来年から、トレイルエンジェルとして日本人をもてなすことにすると話してくれた。
なんだか嬉しい。こんな風に、トレイルエンジェルという文化が生まれるのだろうか。だとすれば、僕たちバックパッカーにはこうした無形の財産を失わないための行動が求められるだろう。
「別れを言うのは辛いけれど、今回は幾分楽だ。お前には共に歩く仲間がいるんだからな」
英語が聞き取れていなかったであろうGOKUさんにウインクしながら、彼は別れを切り出す。
僕も、彼も、今回は泣いていない。僕は胸を張って歩きだす。ペースが遅いGOKUさんとはすぐに別れることにした。お互いその方が楽なのだ。「再会はカナダかな」なんて言葉を交わす。