ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
身軽な立場のハイカーが考えた、
「守るもの」と「幸せ」の意味。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/11/02 08:00
全米で最も深い湖・クレーターレイクで一緒に歩いたGokuさんと記念撮影。親子に間違われた。
ロッジ近くの茂みにキャンプして、朝食ビュッフェへ。
トレイルはその日から、毎日雨に見舞われた。
途中“Timberline Lodge” という、ジャック・ニコルソン主演のホラー映画「シャイニング」のロケ地として使われたことでも有名なロッジを通過した。もっとも、僕達バックパッカーにとって、このロッジはハイクオリティな朝食ビュッフェを提供することで名を広く知られていた。
ロッジに宿泊するのは高いので、僕はトレイル近くの茂みにキャンプし、翌朝の朝食ビュッフェを食べに行くことにした。
食糧補給も兼ね、ジップロックバッグを携えながら。同じことを考えている若いバックパッカーが居てニヤリ。モラルのないような話だが、PCTを歩くバックパッカーが通過するこの時期ではお馴染みの光景なのだと、ウエイターは笑いながら教えてくれた。
雨足が強まり、外に立てていたテントに戻れなくなってしまい館内で雨宿りをしていると、GOKUさんがやってきた。時計を見れば、昼食ビュッフェの時間に切り替わっている。やれやれ。結局僕は、昼食ビュッフェを終えた彼と再び共に歩き出した。
木々の葉が色づいている。ずいぶん遠くまできたものだ。
木々の葉が少しずつ色めいてきたのに気付く。季節によるものなのか、緯度を北に上げたためなのか。随分と遠くまで来たものだ。もう9月になろうとしている。
テントは毎朝酷い結露で、びっしょりだ。昼間の少しの晴れ間にテントと寝袋を乾かしながら、僕たちはオレゴン州最後の町へたどり着いた。
“Cascade Locks”。目の前に流れるコロンビア川を渡れば、そこはアメリカ最後の州ワシントン州だ。
GOKUさんと部屋をシェアした翌日、町に滞在するGOKUさんに手を振りながら、ワシントン州の山へ足を踏み入れた。久しぶりの快晴が、カナダへの道のりを明るく照らしてくれている。
その時は、自分を待ち受けていた困難を知らず、そんな風に思っていた。