ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
身軽な立場のハイカーが考えた、
「守るもの」と「幸せ」の意味。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/11/02 08:00
全米で最も深い湖・クレーターレイクで一緒に歩いたGokuさんと記念撮影。親子に間違われた。
閉局時間を過ぎた郵便局に駆け込むが……。
次のリゾート地“Shelter Cove Resort”で荷物を受け取り、彼と別れる。僕は次の町に寄る必要があるからだ。
トレイルはThree Sistersという、3つのシスター山を取り巻いていく。メキシコから歩き始めてちょうど2000マイル。美しい景色に心を奪われながら、そしてオレゴンに入り増えてきた雨や雷に怯えながらSistersの町にたどり着いた。
この町では、カナダまでの残り区間全ての食糧補給と発送をしなければならない。この先立ち寄る予定の補給区間は小さな商店しか期待できないからだ。以前、郵送を怠ったためにスナック菓子だけの食事で歩いた区間があったので、油断は出来ない。
交通量の多いハイウェイでのヒッチハイクに苦労し、結局後ろから来た地元出身のバックパッカーの迎えに一緒に乗せてもらうことで、なんとか郵便局に駆け込むことが出来た。スーパーで買い出しを済ませ、発送の手続きをしていると、閉局時間の17時を過ぎてしまう。郵便局の職員は露骨に舌打ちをする。
「金曜の夜は家族と過ごしたいんだがねえ」
平謝りをしてなんとか発送を終える。今日中に出来なければ、月曜まで待たなくてはならないところだった。ヒッチハイクで受けた冷たい反応と郵便局員の役所的対応。この日は8マイルほどしか歩いていないのにもかかわらず、疲れ果ててしまった。難しいことを考えずトレイルを20マイルなり30マイル歩くほうがどんなに楽なことか。
メールをチェックすると、思わぬ人物から連絡が。
モーテルの部屋を久しぶりに一人で借り、メールをチェックすると、思わぬ人物から連絡があった。
なんと、シエラネバダを抜けた後にお世話になったTedとミホコさんがクレーターレイクに遊びに来ており、タイミングさえ合えば、明日会わないかと言うのだ。
「もしもお前が明日トレイルに出る予定なら、無理に町に滞在する必要はない。俺たちの為に貴重な時間を無駄にしてくれるな。元々町に滞在する予定なら、是非食事を一緒にしよう」