野球クロスロードBACK NUMBER
人気と戦力以外に必要なことがある!
楽天が渡辺直人と共に放出したもの。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/12/14 10:30
野村克也元監督からは「人生、野球をやめてからの方が長い。視野を広げるにはいい機会。必要とされているのだから頑張れ」との言葉をもらったという渡辺直人
渡辺の厚い人情を知るファンは球場で熱い声援を送った。
1年目のことだった。同期入団のゴールデンルーキー・田中将大にファンが群がりサインを求める。しかし、一部のファンが営利目的のためネットオークションで売却していたことを知った球団が、公式イベント以外でのサインはしないよう全選手に通達した。
だが、渡辺直だけはサインをし続けた。
関係者の話によれば、球団が困惑しながらやめるように言うと、彼はこう返答したという。
「100人にサインをして、99人がネットオークションで売ったとしても、ひとりだけ本当に喜んでくれるファンがいるかもしれない。だからやめません」
ファンは、そんな渡辺直の人情を知っているからこそ、ホームゲームではどの選手よりも大きな声援を贈るのだ。
派手さには欠けるが「フォア・ザ・チーム」を貫いた。
プレーヤーとしても、渡辺直は自分の持ち味を貫いた。
派手さはない。だが、右方向へ打球を飛ばすために何球もファウルで粘り、死球を恐れることなく思い切り踏み込んでインコースの球を打ちに行く。
出塁すれば果敢に次の塁を狙った。4年通算97盗塁がその証。
上位、下位どの打線を任されても力を発揮した。
守備では、'09、'10年と2年連続でショートの守備率1位。堅実かつ必死に打球に食らいつく守りでチームのピンチを幾度となく救った。
渡辺直は、「フォア・ザ・チーム」の塊のような男だった。
そんな選手が楽天からいなくなる。