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桧山進次郎が歩む、幸福な花道。
功労者の送り方が球団の未来を作る。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byNanae Suzuki

posted2013/09/18 10:30

桧山進次郎が歩む、幸福な花道。功労者の送り方が球団の未来を作る。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

♪この一打に賭けろ 気合で振りぬけよ~♪で始まる、桧山の応援歌。球界でも屈指の知名度を誇るこの曲が甲子園で聴けるのは今年で最後になってしまった。

桧山ほどの選手の引退手順を間違えると……。

 桧山の携帯電話が鳴ったのは午前11時ごろだった。球団社長からだった。

 記事に出ている桧山の解雇報道は事実ではないから安心しろという内容だった。ようやく人心地がついた。

 ただし、その年の契約更改は厳しかった。想像以上の下げ幅だった。

 想像するに、そのあたりから解雇報道が出たのではないか。つまり、フロントサイドの、もし桧山がそれだけの下げ幅を飲まないのだったら球団としては契約を結ぶつもりはないという発言を記者が拡大解釈し、「すわ解雇か」となった。しかし減俸に関しても桧山はどんな条件でも飲むつもりでいた。それも仕方がない。大減俸される選手は、いいときはそれだけもらってもいるのだ。

 あるいは、球団サイドは本当に桧山に戦力外通告を行う予定だったのかもしれない。しかしスポーツ紙の報道が先行したことで、思いとどまった。だとすれば賢明な判断である。

 桧山ほどの選手を手順を踏まずに解雇したならば、阪神ファンが黙っていなかったはずだ。

見事だったヤンキースの松井秀喜引退セレモニー。

 プロ野球の世界では、選手として価値がなくなったと見るや、球団から手のひらを返したように冷たい仕打ちを受けたという話をしょっちゅう聞く。だが、そんなことをしたら球団のイメージに傷がつき、結果的にスカウト活動にも支障をきたす。いいことなどひとつもないのだ。

 そういう意味では、7月にヤンキースが開催した松井秀喜の引退セレモニーは見事という他なかった。引退時に所属していた球団ではないにもかかわらず、7年間在籍したときの功績を改めて讃えたのだ。実際に1日だけマイナー契約を結び、ヤンキースが最終所属球団になるというのも粋な計らいだった。

 ヤンキースは実績も一流だが、こうした演出も一流だ。だからこそ、あらゆる意味で「世界ナンバー1」の球団たり得るのだ。

 今季、まだ球界を去る大物選手が出てくるかもしれない。そこでの演出方法に球団の力量が試される。そして、その球団の未来がかかっているとも言えるのだ。

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