ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
村田諒太、想像を凌駕したデビュー戦。
その拳はラスベガスのメインの器だ!
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO
posted2013/08/26 11:45
2回、右ストレートで柴田をTKOした村田諒太。試合後のインタビューでもうっすらと汗をかいただけの余裕の表情を見せた。
実力を出し切らぬうちに圧勝してしまった村田。
さらに内山は続けた。
「村田は本当は足も使えるしアウトボクシングもできる。でも今日はガードを固めて前に出るあのやり方でいけると思ったんでしょう。ガードを固めて前に出る。それだけでいい。村田にとってすごく楽な戦いになってしまった。柴田はそれもすべて分かっていて、対策まで練っていたんだけど、それをさせなかったのが村田。さすが金メダリストです」
村田の説明はこうだ。
「ブロックの上を打たせて、これならブロックでいけると思った。もっと頭を動かすとか、いろいろな練習はしていますが」
プロ入りを表明してから、さまざまなスキルの獲得に取り組んでいるが、デビュー戦はそれを披露するまでもなかったということだろう。
一方の柴田は試合後にこうコメントした。
「ジャブに対応できませんでした。右もまったく見えなかった。応援してくれた人がたくさんいて、いい試合を見せたかったけど。悔しいです」
何もできなかった─―。
うなだれる柴田は何度も同じフレーズを繰り返した。
噛ませ犬相手の勝利ではなかったことに意味がある。
村田にとってこの勝利の持つ意味は大きい。
どのような大型ルーキーであれ、デビュー直後は温室の苗木のように大事に育てられる。花を咲かせる前に枯れてしまっては困るからだ。大型であればあるほど、大切に育てるのが洋の東西を問わず、ボクシング界のセオリーである。デビュー戦でいきなりタイトルホルダーと対戦するというケースは極めてまれだ。
大勝という結果に忘れられてしまいがちだが、村田にとって柴田戦は勝負のかかった一番だった。ほぼ勝利の約束された噛ませ犬相手の試合ではなかった。にもかかわらず、村田はその一戦をまるで無名の外国人選手を相手にした調整試合のように片づけてしまったのである。
デビュー戦の結果を受けて、あらためて感じたことがある。それは村田は世界チャンピオンの候補生ではなく、世界的なスーパースターの候補生という事実だ。
ミドル級は世界的に選手層が厚く、地域差なく人気のあるクラスである。軽量級は日本国内でスターにはなれても、世界的なスターになれるチャンスは少ない。
ミドル級なら、そして村田なら、スーパースターになれるチャンスがあるのだ。眩いばかりのラスベガスのリングに、世界中が熱い視線を送るメインイベンターとして登場する可能性があるのだ。
それは村田本人の夢であると同時に、日本のボクシングファンが長年抱いてきた夢でもある。