ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
村田諒太、想像を凌駕したデビュー戦。
その拳はラスベガスのメインの器だ!
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byYusuke Nakanishi/AFLO
posted2013/08/26 11:45
2回、右ストレートで柴田をTKOした村田諒太。試合後のインタビューでもうっすらと汗をかいただけの余裕の表情を見せた。
これほどまでに力の差があるものなのか─―。
ロンドン五輪金メダリスト、村田諒太(三迫)がプロデビュー戦で2回TKOと圧巻の勝利を飾った。試合はゴングが鳴ってわずか、村田が鋭く踏み込んで右ストレートを放った瞬間に決まったも同然だった。このクラスで国内随一のスピードを誇る東洋太平洋ミドル級王者の柴田明雄(ワタナベ)は、一頭だけ逃げ遅れた草食動物のように、いとも簡単に捕獲された。あとはただノックアウトを待つだけの残酷なショーが繰り広げられたのである。
31歳の柴田がアップセットを起こすという期待は、それほど大きくはなかったかもしれない。ただ、27歳の五輪金メダリストといえども、逃げ足の速い柴田をそう簡単にはつかまえられはしないだろう。場合によっては判定までいくのではないか。あるいは後半まで粘るのではないか。そのような予想がなかったわけではない。それがあれほどまでにたやすく、まるで赤子の手をひねるように、現役東洋太平洋王者をキャンバスに沈めてしまうとは……。
しかし、柴田の控え室に、衝撃の結末を驚きを持たずに受け止めた人間がいた。
「去年のスパーリングがまさに今日の展開でした」
柴田の兄貴分であり、アマチュア時代から村田をよく知る現WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志である。
村田対策を立てても柴田が、勝てなかった理由。
昨年のオリンピック前、村田と柴田はワタナベジムでスパーリングをしている。このとき村田は柴田をあっという間につかまえ、ダウン寸前に追い込んでいる。「1年も前のことなので参考にならない」(村田)、「あれから自分も成長している」(柴田)。ワタナベジムの狭いリングでの出来事だ、という関係者もいた。しかし現実にはまったく同じ光景がこの日も繰り広げられたのだ。
「もちろん柴田はそうならないように練習を積んだし、動いて動いて的を絞らせないようにしようと考えていた。そして村田はそうさせなかった。圧力なんです。柴田は動きながらできるだけ強いパンチを村田に打ち込もうとした。だけど村田は圧力が強い。柴田が強いパンチを打とうと思っても、打てない距離に入ってきてしまう。根本的に体のパワーが違う」(内山)
柴田は足を使いながら、ただ逃げるのではなく、攻めていこうとした。モーションの小さな右のショートパンチをカウンターで合わせ、金メダリストの歯車を狂わせようとした。しかし村田の予備動作の少ないジャブは避けるタイミングを与えず、美しい軌道を描く右ストレートはどこまでも伸びてきた。