1点は与えてもいいと、覚悟を決めた結果……。

　明徳義塾の馬場は1ボールからの2球目にスクイズを試みたがファウル。さらに2ストライク1ボールからスリーバントスクイズを敢行したが、捕手へのファウルフライに倒れ、好機をつぶした。

　馬淵はこう悔やんだ。

「あそこで同点に追いついとったら勝っとったと思うよ」

　確かに、スクイズが成功していたら明徳の流れになっていたはずだ。だが結果は、何としてでも1点が欲しいと二度までもスクイズを仕掛けた馬淵が奪えず、1点は与えてもいいと割り切っていた荒木が守った。ここに、この試合の妙があった。

　日大山形は2回戦の日大三（西東京）、3回戦の作新学院（栃木）、そして明徳義塾と、全国制覇の経験を持つ実力校に3戦連続で勝利した。それと同時に2006年に自ら打ち立てた県勢最高記録の夏8強の壁をも破った。

　いや、単純に記録を超えただけではない。当時から変わらず指揮を執る荒木は7年前の自分も越えた。

　2006年は1回戦から戦ったのに対し、今年は2回戦から登場した。そのため勝利数は同じ3だが、この夏の3勝の方が中味はずっと濃い。