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世界一有名なサッカーの応援団長!?
スペインの“マノロおじさん”の素顔。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byMutsu Kawamori
posted2010/11/08 10:30
バルのオーナーでもあるマノロおじさん。自分の店は「メシを食うための金を稼げればそれでいい」とのこと
南アW杯の冬のスタジアム。半袖で太鼓を叩き続け……。
「これで快適だ」
マノロは僕の隣に腰を掛ける際に必ずそう言った。そして、太鼓を収納するケースの隅からお菓子、パン、ジュースを取り出しては「ほら、食べろ。遠慮せずに食べろって」と勧めてくれた。
それまで常に笑顔が絶えないマノロだったが、初夏のスペインから冬の南アフリカへやって来たことで、体調を崩してしまう。
マノロはスタジアムで応援するとき、半袖で太鼓を叩く。試合中は興奮して太鼓を叩き続けるから寒さを忘れてしまうものの、61歳の身体にはやはり無理があった。度重なる移動による疲労の蓄積もあっただろう。スペイン対チリのグループリーグ第3戦が終わった頃には、ひどい咳がひっきりなしに出るようになっていた。
全身を震わせながら咳をするマノロは、ついに移動するとき以外はホテルから出られなくなってしまった。
それを知ったスペイン代表のチームドクターが、彼の部屋に駆けつけたりもした。僕が飲み物などの差し入れを届けると、「もう3回も手術しているお腹の傷が咳で開いてしまうぞ! ってドクターに怒られちゃった」と、身体を小さくしながら話していた。
「もし準決勝に進んだら、俺は必ず戻ってくる」
結局咳は止まらず、肺炎と診断されたマノロは、ポルトガルとの決勝トーナメント初戦が終わった後、スペインへ帰国することになった。
泣きながら「みんなありがとう」と言い、ホテルを後にする彼の映像はスペインで何度も放送された。そして、彼の“宣言”もカメラはちゃんと捉えていた。
「もし準決勝に進んだら、俺は必ず戻ってくる」
スペインは準々決勝でパラグアイを下し、ドイツとの準決勝に駒を進めた。その準決勝の会場、ダーバン・スタジアムで、聞き慣れた太鼓のリズムが聞こえてくる。スクリーンを見上げると、いつもと変わらないマノロの姿が映し出されていた。しかも、半袖である。肺炎と診断されて、まだ10日も経っていない。