野球善哉BACK NUMBER
「実力本位」か「地元密着」か?
ドラフトに滲む各球団の価値観。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS/Naoya Sanuki
posted2010/10/25 12:30
たとえば阪神の場合――。
広島・前田健太が阪神戦で好投する。弱冠22歳の若きエースの勢いにやられたと思う。
巨人・坂本勇人が阪神戦で決勝打を放つ。若くしてジャイアンツ打線を引っ張る若武者の存在を恨めしく思う。
そして、虎党は、あることに気付き、嘆くのである。
「関西出身の彼らを、なぜ、阪神は指名しなかったのか」と。
青森・光星学院に野球留学をした坂本は仕方がないにしても、PL学園高1年夏に甲子園に出場し、3年春のセンバツでベスト4に進出。関西の野球ファンなら誰でも知っていたであろう前田健の指名を回避し、数年後、その投手にやられてしまうのだから、虎党の心中察するに余りある、というものである。
ことは阪神に限らない。ドラフトにおいて、「実力本位」と「地元密着」のプライオリティーはどうあるのだろう。やはり、実力を第一に能力の高い選手を優先的に指名して行くべきなのか、それとも、地元の選手を指名するべきなのだろうか。
全国区になりきれなかった唐川への評価。
'07年の高校生ドラフトで面白い話がある。
この年の高校生ドラフトは、中田翔・(佐藤)由規・唐川侑己の、いわゆる「BIG3」が注目選手として騒がれていた。甲子園最速球を記録した由規、当時の高校通算本塁打記録を更新した中田、玄人好みのピッチングがスカウトをうならせた唐川と、球団によって評価が三分した年だった。
当時の指名は以下。
中田…阪神、オリックス、日本ハム、ソフトバンク
由規…楽天、ヤクルト、中日、巨人、横浜
唐川…ロッテ、広島
※西武は裏金問題で指名権なし
中田や由規のように、スカウトでなくても、だれしもがその実力を知っているような全国的スターであれば、地元であるなしに関係なく評価され、指名されるものだろう。むしろ、唐川のように、甲子園には出場しているものの、今一つ全国区になれなかった選手への評価は、スカウトの眼力の違いやチームの方針によって違いが出るものだ。ロッテは、このとき、地元・成田高校の唐川を指名する方針を打ち出していた。
一方で、興味深い選択をしたのが楽天だった。ドラフト後に分かったことだが、由規を指名した楽天は、当時、心中揺れていたのだという。楽天のスカウトがこんな話をしていた。