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ネイマール獲得では埋まらない!?
バルサのチアゴ流出はあまりに痛手。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2013/07/25 10:31
イタリア生まれのチアゴの両親はブラジル人。父は1994年アメリカW杯優勝メンバーのマジーニョ。
チアゴと父を自ら口説き落としたグアルディオラ。
そこでチアゴはユナイテッドを選び、契約内容について交渉し、概ね合意に至った。クラブ間で話が付き次第、移籍は正式に発表されると思われた。
そこに割って入ったのが新監督グアルディオラの要請を受けたバイエルンだ。
チアゴの代理人を務める弟ペラから状況を聞いたグアルディオラが「まだ間に合う」と踏んだのだろう。自らチアゴとその父マジーニョを口説き落とし、バイエルンはバルサに2500万ユーロ(約32億円)を提示した。
「選手が一旦移籍を決意したら、あとは“数字”の問題となる」
スポーツディレクターのスビサレタがこう語るバルサは、違約金を大幅に上回る額を前にして、首を縦に振るしかなかった。
バルサにとって、このタイミングでのチアゴ流出は痛い。
というのも、今シーズンはポスト・シャビ期を真剣に考え、新たなシステムを試していかねばならないからだ。バルサの中盤に長らく君臨してきたシャビだが、前回この欄に記したとおり、フィジカルコンディション不良のせいで1、2年後には限界が訪れることを本人が認めている。
数年後には間違いなくバルサの中核になるはずだった。
後釜は当初セスクと目されていた。しかしバルサにおいて、彼の良さが現れるのは神出鬼没のポジショニング。プレイエリアを定めて、パスの方向・スピード・テンポをもってチームを動かすのはそれほど巧くない。
チアゴももちろんシャビとは違う。が、昨季までのチームでシャビに最も近いのはチアゴであり、実際2月のヘタフェ戦ではその能力をアピールしていた。故障中のシャビに替わって先発し、チームのへそに当たる位置に立って、出したパスは130本。枠内へのシュートとアシストはそれぞれ2本。シャビの指揮下でプレイすることに慣れているテージョも試合後、「シャビがいないときは立派に代役を務められる」と、そのプレイを評している。
18歳でトップチームデビューを飾った後もBチームの試合に出場し続けたチアゴは、グアルディオラがカンテラの選手用に設定した3つの段階「プロのゲームに慣れる」「主力としてチームに責任を持つ」「キープレイヤーとして勝負を決める」を全てクリアした純正のエリートだった。まさに次代のリーダーで、そのまま残っていたら、数年後には間違いなくバルサの中核として活躍していたはずだ。
同じ道を辿ってきたシャビも移籍を決める前のチアゴにこんなアドバイスを送った。
「望みどおり(試合に)出られなかったことも、自分にとって最高の選択をしたいのもわかる。でも、僕のときだってすんなり行ったわけじゃない。自分より先に使われる選手が何人もいた。だから、いまは我慢することを勧める。バルサで成功するために必要なものは全て兼ね備えているのだから」
それでもブラジルW杯を夢みるチアゴは去って行った。
カンテラに控える若手も含めて中盤のタレントには事欠かないバルサだが、代えのきかない選手もいる。今季はネイマールの使い方にも頭を捻らねばならないし、新監督ヘラルド・マルティーノの仕事は山積みだ。