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MLBが目指すボールパーク化戦略。
サービスの品質を決めるものは何か。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byGetty Images
posted2013/06/25 10:30
ボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイパーク。ホセ・イグレシアス選手の打席で起こった“ウェーブ”に参加するファンたち。
サービスの価値を決めるものは何か?
「ボールパーク」化を目指す戦略的理由はどこにあるのだろうか?
1つには、収入源を増やすこと、つまりチケット収入以外にも飲食やグッズ販売での収入増加を狙っていることも考えられる。
そしてもう1つはファンを増やすこと。つまり、ファンが感じるサービスの価値の向上にある。
実は、ハーバードビジネススクールのヘスケット名誉教授他によると、顧客が感じるサービスの価値は以下の公式であらわされる。
サービスの価値=受け取ったサービスの品質/それを受けるために支払った総コスト
ここでいう「サービスの品質」とは、客観的に決まるものではなく、あくまでも顧客の主観で決まってしまうものではあるが、そのサービス品質とは、サービスの「結果」のクオリティと、そのサービスを受ける「過程」から得られる品質の2種類あるといわれている。上述の式中の分子にある「サービスの品質」は、サービスの結果と過程から得られる品質の足し算となる。
サービスの価値=サービス品質(サービスの結果についての品質+サービスを受ける過程で得られる品質)/総コスト(価格とそれを入手するまでにかかった他のコスト)
結果から生まれる品質とは、美容室で言うと切った後のその髪型。過程から得られる品質は、例えば美容室までのアクセス、受付での対応、待ち時間での印象などが含まれる。
サービスの印象は事前の期待値によって変化する。
顧客がサービスのトータルクオリティがよいと認識してくれれば、顧客内のサービスの価値が上がり、満足度向上の要因にもなる。通常、提供するサービスそのもののクオリティ向上に力をいれるが、スポーツでは、その結果に当たるもの、つまり試合の勝敗をコントロールするのは難しい。優勝チームの勝率が5割5分~6割であるので、半分ほどが負け試合になる。これがスポーツマネジメントの大きな悩みであり、ビジネスモデルの制限要件にもなる。したがって試合の勝敗以外に、試合を観戦するまでの「過程」に注目してサービス価値を向上させるべく、「ボールパーク」という構想のもとサービスのトータルクオリティの向上を図っていることはわかる。
つまり、スタジアムに入るまでのワクワク感、楽しさ、試合中に楽しむエンターテイメント、食事、座席の座り心地、スタッフの対応などを通じて、試合を味わうまでの過程の楽しみが最大になるように戦略的取り組みを強化することは、スポーツの特性上理にかなっているといえよう。
そしてこのサービス品質は、事前の期待値と実際の経験の差で知覚される。実際の経験が期待値を上回るとサービス品質がよいと顧客に知覚され、これが逆転すると、悪いと顧客に認知される。
さらに、サービスの難しさは、サービスの質を決めるのは企業ではなく、顧客の「主観」であって、しかも顧客ごとに感じ方が違うということである。できる限り似たようなニーズ(期待値)を持った人に対してサービスを提供できる環境を整えることが重要だということはすでに前回、前々回でお伝えした通りである。顧客の事前期待値をコントロールすることも、顧客が認識するサービス品質を良くするためには重要なのである。今回はさらにサービス品質を構成する側面を紹介しよう。