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ザウバーからタイヤの泰斗を一本釣り。
王者レッドブルが打った連覇の布石。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2013/06/15 08:01
レッドブル・レーシングにタイヤのスペシャリストとして新たな羽をもたらしたピエール・ワシェ(左)。ザウバーにおけるワシェの後継は、昔レッドブルにも在籍していたベンジャミン・ウォーターハウスというから、面白いものである。
ザウバーの成績を引き上げた元ミシュランのエンジニア。
そのため今年は、マシンそのものを速くする開発とともに、いかにタイヤをうまく使うかという分野にも焦点が当てられている。そこで注目され始めたのが、かつてタイヤメーカーに所属していたエキスパートたちである。昨年の段階でF1には5人のタイヤ・エキスパートがいた。浜島裕英(フェラーリ)、今井弘(マクラーレン)、松崎淳(フォース・インディア)、ロイック・セラ(メルセデスAMG)、そしてピエール・ワシェ(ザウバー)だ。日本人の3名がブリヂストン出身者で、残る2人がそのブリヂストンとかつてF1でタイヤ戦争を繰り広げた元ミシュランのスタッフだ。
ホーナーが目を付けたのは、ザウバーにいたワシェだった。ミシュランでコンパウンドの開発を任されていたワシェは、ミシュランがF1から撤退すると'07年にBMWザウバーに移籍。'08年にBMWザウバーの初優勝に貢献し、昨年はザウバーのヘッド・オブ・ビークルダイナミクス&シミュレーションとして4度の表彰台獲得を後押しした。
カナダGP優勝のベッテルは「タイヤに悩まされなかった」。
シーズン終了後の12月上旬にレッドブルはワシェとの契約を締結するが、F1には移籍にともなって「ガーデニング休暇」なるものが前チームとの契約の中に存在するため、ワシェがレッドブルに加入したのは6月に入ってからだった。第7戦カナダGPは、ワシェがレッドブルの一員として戦う最初のグランプリだった。
その緒戦でチームは完璧な戦いでポール・トゥ・ウィンを手にした。苦手だったカナダGPで初勝利を飾ったセバスチャン・ベッテルは、レース後の会見でこうチームを讃えた。
「今日はずっとプッシュし続けたけど、タイヤの摩耗に悩まされることはなかった。タイヤの使い方という点で、僕たちは前進したようだ。だから、今日の優勝は最高だね」