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ザウバーからタイヤの泰斗を一本釣り。
王者レッドブルが打った連覇の布石。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2013/06/15 08:01
レッドブル・レーシングにタイヤのスペシャリストとして新たな羽をもたらしたピエール・ワシェ(左)。ザウバーにおけるワシェの後継は、昔レッドブルにも在籍していたベンジャミン・ウォーターハウスというから、面白いものである。
「ほかのトップチームの多くが、かつてタイヤメーカーに所属していたエンジニアを雇っているのに、どうしてレッドブルはタイヤに精通したスタッフを引き抜かないのでしょうか」
5月上旬、スペイン・バルセロナでレッドブルのクリスチャン・ホーナーにそう尋ねると、ホーナーは少しばつが悪そうな表情をして、こう返答した。
「私もタイヤメーカー出身のエンジニアの存在が重要であることは十分、理解している。フェラーリにはハマシマがいるようにね。でも、私は自分たちのスタッフたちが優秀であることを信じている」
1973年生まれのホーナーは今年で40歳を迎える若きF1チーム代表だが、8年前の2005年にレッドブルのチーム代表に抜擢され、その後チームを常勝軍団に導くなど、その手腕は高く評価されている。状況を正確に見つめる冷静さがあると同時に、次の一手を的確に打つことができる鋭い洞察力も兼ね備えている。そうでなければ、レッドブルをここまで成長させることはできなかったはずである。
“21世紀のF1界の奇跡”が手を焼いた新タイヤの扱い。
'80年代以降、フェラーリ、マクラーレン、ウイリアムズの古豪3チーム以外で、彼らトップチームに肩を並べ、しかも複数年でタイトルを獲得したチームは'94年~'95年のベネトンと、その後継チームであるルノー('05年~'06年/現ロータス)、そしてレッドブルしかいない。レッドブルは21世紀のF1界の奇跡ともいえる存在である。
そのレッドブルが今シーズン、開幕戦から苦しんでいたのが、デグラデーションが大きい2013年用ピレリタイヤだった。デグラデーションとはタイヤの性能劣化を示し、日本のレース界ではいわゆる「タレ」という言葉で表現される。エキサイティングなレースを望むFIAからの要請で、ピレリはあえてデグラデーションが大きいタイヤを2013年用に開発。そのため、速くともタイヤがすぐに性能劣化して、交換を余儀なくされてしまい、ポジションを維持できない。開幕直後のいくつかのレースで、ポールポジションを獲得したドライバーが優勝できなかったのは、そういう理由が隠されていた。