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軽妙な文体に知性が滲む、
アスリート実録物の快作。
~村田諒太『101%のプライド』~
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySports Graphic Number
posted2013/02/17 08:00
『101%のプライド』 村田諒太著 幻冬舎 1300円+税
久しぶりに、アスリートの本を読んで大笑いした。五輪ボクシングミドル級金メダリスト、村田諒太の語り口は軽妙、読後感もスッキリで大満足である。
昨今、アスリート本の流行はメンタル、名言に加えてビジネス的発想の「お役立ち路線」がメインだ。自分もその流れに乗っかっているのでエラそうなことはいえないのだが、このジャンルの本を読むのは飽きた。アスリートや競技本来の魅力を損ねるケースが目につくのだ。
反対に、最近あまり見かけなくなっていたジャンルが、アスリートの経験と語り口で読ませる「実録物」だ。特に'70年代のアメリカではそうしたものが数多く出版されて人気を博していた。にわかには信じ難い体験、そしてユーモアがふんだんにちりばめられたもので、スポーツ物の王道といえるジャンルだ。
数十年の時を経た日本で、このジャンルに村田諒太が突如として登場したのである。ボクシングを始めたきっかけに始まり、中学、高校生活を振り返りつつ(中3時代の、登校はするが教室には行かない生活ぶりに驚き、笑う)、南京都高校での恩師との出会いが綴られる。
「ジャイアニズムとは、横暴の極みを意味する言葉である」
いい話だと思って読んでいると、高3の秋に部活動を引退してから、女性の部屋に入り浸って……といった表現がさらりとなされ、話の方向が予測不能になる。語学にも積極的だが、真っ先に習得する単語はロシア語でも、タイ語でも「綺麗」というものだ。いうまでもなく、女性相手に使う。
読み進めていくと村田諒太の世界に引きずり込まれていくのだが、文体に味わいがあるのがいい。たとえば高1で初めて優勝した瞬間を次のように振り返る。
「喜びの表現として応援に来てくれていた、大仏みたいな顔をした奈良の選手のほっぺたにぶちゅーとチューをしていた(笑)。僕には、もちろん、男性を愛する趣味はなく、なぜそんな突拍子もない行動をしたのか、まったくの謎」
あるいは高校時代、鬼キャプテンとして「ジャイアン」と呼ばれていたのだが、当時のキャプテンシーをこう定義する。
「ジャイアニズムとは、横暴の極みを意味する言葉である」
お見事。そして時折、ユーモアに包んだ知性があふれ出る。たとえば、こんな表現に。
「ネガティブ君が、僕の心に居座りあぐらをかいていた」