MLB東奔西走BACK NUMBER
黒田博樹は38歳でさらに進化する。
メジャーで得た悟りは“Let it be”。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2013/01/26 08:01
昨シーズンの活躍が認められ、ヤンキースと1年、1500万ドル(約13億円)プラス出来高払いで再契約した黒田博樹投手。2月10日には38歳の誕生日を迎える。
他の日本人投手と一線を画す、黒田流の思考法。
実は元々黒田の思考法は、他の日本人投手たちとは一線を画していた。
かつてこのコラムで黒田の投球について考察し、試合や状況に応じて臨機応変にベストの投球を組み立てていくことが安定感に繋がっていると論じたことがあった。その根底にあるのが、“自分を信じ過ぎない”という黒田の思考法なのだ。昨年の自主トレのことだが、彼はこんなことも話してくれたことがあった。
「所詮人間の身体なんて信用できないでしょ。例えば同じ外角低めに2球続けて同じ球が投げられたとしても、機械ではないですからまったく同じ(動き)ではないんです。だから自分のやることを信用したりしていません」
ちょうど同じ時期に、高橋尚成投手の自主トレの取材をしていたのだが、彼は本来の直球の握り(いわゆるフォーシーム)から、投球フォームの身体の開きを多少ずらすことでボールを変化させるという新球に取り組んでいた。
高橋の場合、投球フォームを自分なりに“より制御しよう”という考え方になる。これまで接してきた日本人投手のほとんどは高橋タイプの思考法で、投球フォームを含め自分の投球を理想に近づけるべく模索していた。
メジャー挑戦で黒田が得た『Let It Be』の新境地。
だが、黒田の思考法は明らかに別の次元にあるように思う。
黒田の思考法を言葉で表現するならば、ビートルズの有名な曲『Let It Be』というところではないだろうか。
黒田にとって“it”は身体であり、体調であり、投球なのであり、それらをすべて受け入れることを基盤としている。
つまり黒田は「この体調ではいつもの球が投げられない」とか「この球では打者を抑えられない」とネガティブに捉えるのではなく、「自分の置かれた状況でどうやって打者を抑えていくか、最善の策を考えよう」という捉え方をしているのだ。
これこそがメジャー挑戦で黒田が得た新境地に他ならない。