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<40代が繰り広げる賞金王争い> 藤田寛之と谷口徹の大いなる野望。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAFLO
posted2012/11/22 06:01
丸山、伊澤、片山が苦しむ中、2人が存在感を放つ理由。
同世代なら丸山茂樹や伊澤利光、少し下には永久シードまでたどり着いた片山晋呉がいる。きらびやかな輝きを放った彼らは今、最前線から少し離れた場所に下がってしまった。谷口も'02年、'07年と2度の賞金王を獲得した後にしばらく息を潜め、一昨年あたりから再び輝きを取り戻した。藤田は毎年自己ベストを更新していくような地道な歩みで、ようやくキャリアのピークを迎えようとしている。
特段にパワーがあるわけではなく、ボールコントロールの良さとショートゲームが持ち味。なかでもパッティングに関してはツアーの誰もが認める巧さがそれぞれにある。そんな自分たちのプレーがメジャーで通用した実感はまだないのだろう。米ツアーで3勝を挙げた丸山や、マスターズで4位になった片山なら味わったであろう充足感が足りない。だからこそ、何度打ちのめされても、何歳であろうとも、また立ち上がってメジャーを目指そうとするのだ。
妻との約束を反故にしても「ボールを真っ直ぐいかせるほうが先」。
藤田は40歳を迎えるにあたり、所属する葛城GCのクラブハウスに専用のトレーニングルームを設置した。ドライバーでも長尺を試すなど、肉体的な衰えによる後退をできるだけ防ごうとしてきた。そうした地道な努力と妥協なき取り組みは、自分に対してだけのものではない。
一昨年のシーズンオフのことだ。藤田は妻の優合子さんと「前厄の厄払いに行こう」と約束していたという。しかし、朝から練習に行ったまま帰らなかった。怒る妻にこう言って反論した。「厄払いよりボールを真っ直ぐいかせるほうが先だろう」。
「ゴルフのために俺がやってることに文句を言うな!って感じですね。奥さんは非常によくやってくれていると思いますよ」
ファンにもメディアにもいつも丁寧に対応する藤田の優しいイメージからすれば、意外なほどの亭主関白ぶり。子供から「どうしてパパは家にいないの?」と聞かれたとしても、どうしても練習場に足が向いてしまう。