フェアウェイの舞台裏BACK NUMBER
「これからは2年前とは別人」――。
21歳の大人になった石川遼が進む道。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byYUTAKA/AFLO
posted2012/11/21 10:30
11月11日、三井住友VISA太平洋マスターズで2年ぶりの復活優勝を遂げ、最年少で10勝目を上げた石川。インタビューでは「今日もダメかなと思う自分がいて、優勝の味というか感触を忘れていたので不思議です」と目を潤ませながら語った。
一体いつになったら勝負にこだわるようになるのだろう。
最近の石川遼を見ていると、時々そんな苛立ちを覚えることがあった。
相撲の世界に「三年先の稽古」という言葉があるが、石川にとっても今日の練習はすぐに結果を出すためのものではなく、今日の試合でさえ今後に向けた練習の一環でしかない。それが変わらぬ基本姿勢なのだ。
たとえば同学年のライバル、松山英樹はマスターズ出場を目指し、アジアアマ選手権の3連覇のことだけを考えて1年間を過ごした。石にかじりついてでも結果を出したい。石川にそんな決死の舞台があるとするなら、小学生の頃に優勝を夢見た「20歳のマスターズ」だろうかとも考えたのだが、それも思い違いだった。
今年のマスターズであえなく予選落ちに終わった石川は、「どう努力してきて、この試合を迎えたかのプロセスが大事。残念は残念だけど、終わってしまったことはしょうがない。来週には日本ツアーの開幕戦もあるし、試合は続いていくので」と語っていたのである。
悔しさを押し込めたい気持ちも理解できたのだが、その淡々とした語り口調に“このタイミングでもなかったのか”とある種の失望を覚えたのは事実。洋々たる表情でマスターズ制覇の夢を語っていた以前の石川とは、どこか別人になってしまったように思えたものだ。
「今の自分は以前とは別人だと思ってます」
そんな石川が自分で「別人」という言葉を口にしたのは、優勝から遠のいて2年が経とうとしていた10月上旬のことだった。
「以前は目の前が新鮮なものばかりで好奇心もあった。おのずとモチベーションも上がっていた。ツアー生活も5年目になって、もちろんこれは仕事だし、全国を転々とするのにも、いろんなものにも慣れてくる。以前と同じメンタルは一生持てない。今の自分は以前とは別人だと思ってます。上手い別人か下手な別人かは分かりませんけどね。あの頃の自分はすごかったなと思うけど、それ以上でもそれ以下でもないです」
端から見ていても技術は間違いなく向上している。にもかかわらず、超がつくほどポジティブ思考だったはずの本人が現状を肯定しきれないでいる。「このまま続けていけば絶対によくなる」「努力していれば必ず上手くなる」と繰り返しても空々しさが漂い、誰より石川自身がその言葉を信じ切れなくなっていた。