フェアウェイの舞台裏BACK NUMBER
青木、尾崎、中嶋、奇跡の3ショット!
AONの会見にベテランの底力を見た。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byAFLO
posted2012/10/26 10:30
初日の同組対決は中嶋が73の6位と好発進。青木は79、尾崎は80をマークした。中嶋は予選を突破するも、3日目の最後の5ホールで6つスコアを落とし、「2人がいないと張り合いがない」と笑った。
今なお燃えさかるライバル意識と、深い尊敬の念。
そんな問わず語りのやり取りが続くうちに、いつのまにか会見場はぎっちりと人で埋まっていた。記者席の後ろにも立ち見の見物客がずらり。メディアでないツアー関係者も3人の居並ぶ姿を見たがり、入りきれない人は外からのぞき込んでいた。
あるベテランのツアー関係者は、笑うばかりでなくひとしおの感慨にも浸っていた。
「長くこの仕事をしているけど、3人並んでの会見なんて初めて見ましたよ。涙が出そうになりました」
3人そろっての会見は'91年のトーナメントで一度行われているが、ほとんどの人にとっては初めて目撃するメモリアルな出来事だったのだ。
そして、3人のレジェンドによる会見が期待以上のものとなった理由は、彼らの言葉が全てうそ偽りのない感情から出ていたからだろう。互いへの対抗意識、信頼、敬意。どんなに言い合っていても、照れていても、そうした感情がこちらにも伝わってきた。
素晴らしい試合を見た後に残るような爽快感がこの会見後にも感じられた。この瞬間、この場所にいることができてよかった。「試合」ではなく「会見」で、そんな風に思える機会というのはなかなかないものだ。
若手には真似できない、ベテラン3人の本音の会話術。
この会見の映像は翌日のNHKの中継でもわざわざ一部が放送されたほどだった。「あの会見を今の若い選手たちに見せてやりたいよ」と話していたベテラン記者がいたのもうなずける。
互いの個性を理解し、本音でやり合う。必要以上にしゃべらずとも蜂の一刺しのコメントを放つ。その場を取り繕うために心にもないことを言ったりはしない。本音を包み隠すために、わざとらしく前向きさを強調したり、意味のない冗談でごまかしたりもしない。
他のスポーツを見てみても、北島康介の「チョー気持ちいい」「何も言えねぇ」や長州力の「かませ犬発言」が人々の感情を揺さぶったのは、それが偽りのない本心から発した言葉であるからに違いない。
それもプロにとって必要な能力なのだろう。そういう意味でAONの会見は、選手たちにとって最高の教科書、お手本かもしれない。
中嶋自身も会見後に「若い選手にはできないよね。3人ともツボをつかんでるから」と笑っていた。無味無臭な言葉しか発せない若手選手とは違う味。それが魅力となってファンを、そして記者をも惹きつける。
AONがすごいのはゴルフの腕前だけではないのである。