W杯紀行 思えば南アへ来たもんだBACK NUMBER
ついにヨハネスブルグへ潜入。
南アW杯のために僕は命をかけてる!?
text by
竹田聡一郎Soichiro Takeda
photograph bySoichiro Takeda
posted2010/05/28 06:00
とにかく襲われないようにするための方法とは?
明らかに人通りの少ない道をゆっくり歩き始めた。
自動車などの交通量は比較的多く、ゴーストタウンといった雰囲気こそ無いが、不気味な静けさを感じるのは僕がビビっているからだろうか。
ビルの陰から「ひゃ~はは~、ぶっ殺してやるよぉ」という三日月型のサーベルを持ったモヒカンの悪党が出てくる白昼夢に時々襲われながらも、ここでおびえると余計につけこまれると思い「オレ地元。悪そうなヤツ? だいたい友達」といったオーラを出すことにした。場馴れしている雰囲気を出すために、辻々で売っている5ランドの焼きトウモロコシを買ってみたりして。
硬くてあまり味の無いトウモロコシをガシガシ齧りながら歩いていると、正面からやけに痩身の男性が歩いてきた。彼は僕と同じように片手にビニール袋をぶら下げているのだが、僕とのすれ違いざまにその袋を自分の顔の横まで掲げてこう言った。
「そうやって持っちゃダメだよ! こうしなきゃ!」
僕は日本だと誰もがそうするように、ビニール袋を右手の親指以外の4本の指で握り持っていた。しかし、彼は一度手首までその袋の取っ手の部分を通してから、さらにひねりを加えて持っていて、絶対にひったくられないように工夫していたのだった。たかがビニール袋だが、タフなヨハネスブルグを象徴している持ち方ではある。
ついに襲われた? 道端で奪われたモノとは?
さらに歩いてカールトン展望台あたりまで来た時のこと。ロビーニョを3サイズくらい大きくしたような黒人が通りの向こうから「ヘイ、マイフレンド!!」と急に声をかけ近づいてきた!
僕に向けて言っているのはなんとなく気付いてたけど、怖かったから気付かないフリをした。早足でやり過ごそうと、彼の姿を避けるように歩道の角を曲がったら、彼は華麗なステップと大胆なルート取りで車道を横切ってきて、あっという間に僕の目の前に来た。
ガンかナイフか、はたまた肉弾戦かと身構えると、巨大なその人はギラギラした目で、
「そのトウモロコシ、半分くれない?」
と言った。
拍子抜けしつつトウモロコシを折って渡してあげると、「ダンキ(南ア公用語のアフリカーンス語で「有り難う」)」と短く言い残し、また通りを横切ってどこかへ行ってしまった。30歳を過ぎてトウモロコシをカツアゲされるなんて……。
しばらくボンヤリ佇んでいると「ああ~でも今のが悪いヤツだったら僕は死んでたかもな」ということに気づいた。と、これまで麻痺していた恐怖が一気に襲ってきた。
そこにちょうど「East gate!」と僕の滞在するエリアを連呼する黒人が来た。どうやらそこに行くミニバスが出るらしいと分かった。現在時刻は4時半。暗くなりはじめてきていたし、とっとと帰ることにした。