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笑顔のヒロイン、田中理恵の集大成。
ロンドンで見せた自己ベストと涙。 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byEnrico Calderoni/AFLO SPORT

posted2012/08/04 16:45

笑顔のヒロイン、田中理恵の集大成。ロンドンで見せた自己ベストと涙。<Number Web> photograph by Enrico Calderoni/AFLO SPORT

五輪直前に発症した腰痛に苦しんでの演技となった田中理恵。それでも、「満足はしていないが、悔いは残っていません」と語り、笑顔でしめくくった。

日本チームをまとめ上げるキャプテンとして。

 思い起こせば、和歌山北高時代は、左足首の遊離軟骨の痛みでほとんど練習ができなかった。

 転機となったのは日体大に入り、左足首の手術を受けてから。それまでの痛みが嘘だったかのように軽減され、満足のいく練習ができるようになった。

 そして、何より「笑顔」の大切さに気づいたことが大きかった。以後、演技開始の合図は笑顔。ロンドン五輪でも笑顔を浮かべて右手を挙げる田中の姿があった。

 チーム内では、練習のオンとオフを切り替えるのがうまいことで知られる田中は、今までは集中した練習を後輩に見せることでチームを引っ張ってきた。

 そして今回は、キャプテンとしてもチームを引っ張った。集合時間に遅れてきた選手には「そんなんじゃダメ」と注意をするなど、規律でも厳しくチームをまとめ上げた。

団体決勝で見せた涙は、ただ悔しいだけの涙ではなかった。

 ロンドン五輪では、最初の関門は団体総合予選だった。上位8カ国に与えられる決勝出場権を懸けての戦いは、6月中旬から腰椎分離症を再発させていた田中にとって、最大の難関でもあった。痛みの中で、どれだけの演技ができるか。

 結果は6位。チームの目標である予選突破を果たすと、決勝ではさらにチームをひとつにまとめて戦った。

 ところがここでは8位と順位を落としてしまい、田中の目からは大粒の涙が流れ落ちた。だが、それは悔しいだけの涙ではなかったのである。

「いい雰囲気で、チーム一丸となって最後まで演技をしました。(5位だった)北京五輪に比べると、下がってしまったのはすごく悔しい。でも、全員が今できることをしっかりやっての結果と受け止めています。オリンピックは、本当にいろんな気持ちにさせてもらえる大きな試合でした。最後まで笑顔で、あきらめることなく演技することができたので良かったです」

 涙とともにあふれる感情をあますところなく口にした。

【次ページ】 ロンドンで人々の心に刻み込まれた“理恵の笑顔”。

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