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<団体へ懸ける思い> 内村航平 「日の丸の重みを知って」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2012/07/25 06:01
試合に出なくとも、支えてくれる仲間たちのために。
そしてもう一つ。団体戦への思いを強くさせている要因に、試合に出なくとも内村を支え続けてくれるチームメイトの存在がある。
日体大には体操競技部の合宿所があり、男子は1年生から4年生まで約60人の部員が寝食をともにしている。4人部屋で、各学年1人ずつが基本。ともに生活する仲間たちと練習をするのだから、自然と団結力は強固になる。体操は個人競技だが、それでもやはり、仲間の存在が力になるのである。
ロンドン五輪へ向けてチームが日本を飛び立つ日が迫ったころ、体操ニッポンの監督を務める立花泰則強化本部長は、頼もしげな目線を内村に送っていた。
「航平を見ていると、凡事徹底とはまさに彼のことを言うのだと感じますよ。努力という言葉では片付けられない努力をして、団体に懸けてくれている」
立花監督は団体決勝の演技順の最後のところだけは今から決めている。
「チームの思いは、最終種目の鉄棒の最後の演技を世界王者の内村に託し、内村に決めてもらうというところまで、皆で作り上げようということなんです」
「個人の優勝は一人の喜びに過ぎないけど、団体は皆で喜べる」
同じころ、内村はある映像を見つめていた。動画サイトで探した、アテネ五輪の団体決勝の鉄棒。冨田洋之の最終演技だ。
「最近はあの映像を見ながら『俺もこれをやらないといけないのかな、これ以上の演技をやりたいな』と思っています。個人の優勝は一人の喜びに過ぎないけど、団体の金メダルは皆で喜べる。だから団体がいいんです」
体操ニッポンを取り巻くすべての人々の思いを背に、そして自身の思いを胸に、内村はロンドンで栄光のストーリーを完結させる。