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ミランで安住せず汗まみれの現役を!
ガットゥーゾ、ネスタらの新たな挑戦。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2012/07/27 10:31
5月13日に行なわれた最終節ノバーラ戦の終了後、ファンに感謝の意を示すガットゥーゾ。「自分が出て行って、ほかの選手にスペースを譲るときがきた」と退団の理由を語っていた。
昨シーズンの閉幕をもって、セリエAで一時代を築いた多くの名選手がイタリアを後にした。
特にミランを去った“レジェンド”たちは、セリエBやレーガ・プロ(3・4部相当)といった国内の下位カテゴリーではなく、新天地を目指して国境を越えて行った。
「女房が怒り狂ってる」
苦笑いのガットゥーゾは悪びれるどころか、むしろ楽しそうに語った。13年間に及ぶミランでの奉公を終えた彼は、なおも現役続行にこだわり、プロ18年目の夏をスイスリーグのFCシオンのキャンプで迎えた。スペインでのバカンス旅行をすっぽかされたモニカ夫人が激怒したのも無理ないが、欧州中のチームに怖れられた“闘犬”は、34歳にしてもなお、まるでティーンエイジャーのようにピッチで躍動している――。
何もかもお膳立てされたビッグクラブとは別世界で。
シオンはスイスの山間部にある人口3万ちょっとの小さな町のクラブだ。ガットゥーゾは若い選手に混じって用具係をやり、自らスパイクを磨く。ドリンクも自宅で用意して、練習に備える。世界王者の肩書きをもつベテランMFが身を投じたのは、何もかもお膳立てされたビッグクラブとは別世界だった。
「ミランでの日々が懐かしくないといえば嘘になる。このご時勢、どのクラブも懐は寒い。ここじゃ足首に巻く包帯一本すら貴重なんだよ。だが、そういう些細な事に歯をくいしばる戦いこそ俺が求めていたものだった。このチームでの経験は将来、(指導者となったときに)必ず役に立つ。俺は自分の決断に誇りを持っている」
自ら受け入れた逆境は明日への糧になるだろう。新しいチームで主将をまかされたガットゥーゾは、グラスホッパーとの開幕戦で若いチームメイトたちを引っ張り、2対0の勝利を呼び込んだ。激しいプレーで警告を受け、右太ももに名誉の負傷。「俺はもう34歳なんだぞ」と自嘲しつつも、まるでユースから初めてトップチームに上がったばかりの若手のように、闘志をむき出しにする。引退後を見据えていても、ガットゥーゾはあくまで貪欲だ。