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<UTMF密着ドキュメント> ウルトラトレイル・マウントフジ体験記~日本一過酷な「旅」の果てに~
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph byMami Yamada
posted2013/04/24 17:10
最終盤、河口湖畔を走りながら抱いた不思議な感情。
穏やかな顔をした本栖湖畔を通り、青木ヶ原の樹海へ足を踏み入れる。動く。動くじゃないか! 身体が、脚が、脳がしっかりと動いている。まるで朝ランしているような爽やかな気分で一気に樹海を駆け抜けた。そして国道139号線を緩やかに上り、鳴沢氷穴を経て、紅葉台、三湖台と走り、スタートした河口湖を見渡せる足和田山(五湖台)へ。
帰ってきた! 富士山の周りを本当にぐるり一周してきたんだ。感慨に浸りながら足和田山を駆け下り、河口湖畔に出ると誘導係の人から残り4kmと聞かされる。
UTMFに出ようと思ったのは、知らない世界を見てみたいという好奇心からだった。100マイル、160km。この未知なる世界を体験したかった。スケールは違うかもしれないが、少年の頃に抱いた、まだ見ぬ隣の町に行ってみたいという気持ちに似た冒険心が、UTMFへと駆り立てたのかもしれない。
河口湖畔を走っていると、初めてフルマラソンを走ったときにも、初めてウルトラマラソンを走ったときにも味わったことのない気持ちが湧き上がってきた。
「あ~、終わっちゃう。まだ走り続けたい。もっと走っていたい」
様々な苦難はあっさり忘れ、身体が走る喜びに満たされていた。
きっと脳内から変な物質が出ていたんだろう、楽しくて楽しくて仕方がなかった。山岳地帯で睡魔に飲み込まれたことをあっさり忘れ、延々と続く長い登り坂で“ふざけんなツヨシ!”だなんて鏑木さんのことを呼び捨てしたことも忘れ、僕の身体は走る喜びに満たされていた。ゴールが近づくにつれ、楽しかった夏休みが終わるような、なんとも言えない気持ちになっていた。
「おかえり」「ご苦労様!」「ナイスラン!」
沿道の人の声がこだまする中、僕は履いていたシューズを脱ぎ捨て裸足になり、お約束の般若のお面をかぶった。嬉しくって、名残り惜しくて、ちょっぴり寂しい気持ちになりながら、ゴールで待っていてくれた沢山の仲間とハイタッチを交わして、最後は思いっきりジャンプしてフィニッシュラインに飛び込んだ。
終わった。いや、終わっちゃった。ゴール正面で出迎えてくれた実行委員長に伝えた。
「鏑木さん、すっごく楽しかったです。ありがとうございました。素晴らしい大会でした」