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<UTMF密着ドキュメント> ウルトラトレイル・マウントフジ体験記~日本一過酷な「旅」の果てに~
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph byMami Yamada
posted2013/04/24 17:10
最大の難所を前に、「富士宮焼きそば」で安息の時間。
ここで十分な休息を取ることにした。これからUTMF最大の難所「天子山塊」を迎えることになるからだ。主催者側が用意したマッサージサービスを受けていると、僕はぐっすりと寝入った。その後、ご当地名物・富士宮焼きそばをがっつき、コーラをぐびぐびと飲む。これから待ち受ける地獄を前にしたささやかな安息の時間だ。英気を養った僕はこのレースのヤマ場に向けて足を踏み出す。
「天子山塊」。名こそ「てんし」なれど悪魔が棲む山と呼ばれる難所中の難所。最初のピーク天子ヶ岳まで一気に811mの標高差を登ると、長者ヶ岳~雲守山~雪見岳~毛無山~雨ヶ岳~竜ヶ岳と縦走して、A9(本栖湖スポーツセンター)まで下る27kmの区間だ。
天子ヶ岳の頂上まで2時間も要すと、養ったはずの英気はどこかへ消えていた。まだ天子山塊の入口だというのに、暑さもあってすっかり疲労困憊。雲守山に向かう登りに挑んでいる頃からガクンと身体が重くなる。そして頭はフラフラで意識が遠のき、どでかい睡魔がやって来てしまった。正直、脚力はまだ残っていた。折れそうな心を支える気力もあった。しかし、立ち止まると一瞬で眠ってしまうほどの睡魔の破壊力は、それら全てを奪い取っていくに十分だった。
「もう十分やったよ。いいじゃないか、寝ちゃえよ!」
気がつくと辺りは暗くなっていた。2日目の夜に突入し、視界に入るのはヘッドライトが照らす数十cm先の丸い世界だけ。通る道が全て同じに見え、無限ループしているような感覚に囚われる。時々目線を森の先に向けると、ヘッドライトに照らされた木々がエイドのテントに見えたことがあった。幻覚か。
もうダメかもしれない。眠くて眠くて一歩も動けそうにない。何度も立ち止まったまま眠りそうになる。ついに天子の悪魔が囁きかけてきた。「もう十分やったよ。いいじゃないか、寝ちゃえよ!」。僕は、多くのランナーが進んでいるトレイルのすぐ脇で死体のように横たわった。「終わった。僕のUTMFは睡魔に破れて終わった。残念だけど、これが実力なんだ。みんな、お休みなさい」