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破格の“人間力”で投げ続ける山本昌。
彼が必要とされる日は、きっと来る。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2012/06/18 11:45

破格の“人間力”で投げ続ける山本昌。彼が必要とされる日は、きっと来る。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

今季、二軍に落ちるまでは9試合に登板して防御率3.12の2勝1敗だった山本昌。4月に2勝した後、5月は勝ち星に恵まれていなかった。6月に入って、二軍での投球は好調のようで、「復帰は交流戦後になるかなと思う。いつ呼ばれてもいいように準備しています」と語っている。

記者の小さな「罪悪感」まで拭い去ってくれる気遣い。

 その日、山本昌が出てきたのは、最後の方だった。すると駐車場に姿を現すなり、「みんな待ってるかな?」と駐車場内を見渡し、さりげなく出てきたことを記者たちに知らせる。

 そして、愛車のベンツの前で立ち止まり、再び記者陣の質問に対応する。

 これだけでも相当珍しい。気の早い選手だと、まずは車のシートに身を埋め、ドアの取っ手に手を掛けながら話をする。そして、質問が途切れた瞬間に「いいですか?」と言ってドアを閉めてしまう。

 日本に数台しかないというフェラーリに乗っていたある選手は、質問をすると、意図的にエンジンを空ぶかししたものだ。そうして聞こえないフリをしていたのだ。

 だが、山本昌は、記者の質問が終わらない内は車の前で律儀に立ち続ける。いや、記者の質問が終わっても、そこで待ってましたとばかりに打ち切るのではなく、聞かれてもいないのに二言三言つけ加える。そうしてワンクッション置いてから、ようやく車に乗り込む。深読みすれば、そうして記者陣の「罪悪感」を緩和してくれるのだ。

「いいの、いいの、好きでやってるんだから」

 翌日のインタビュー取材のときも参ったと思った。取材時間が押し気味になり、最後、そのことを詫びるとこう言ったのだ。

「俺、こういう(取材を受ける)の好きだから」

 以前聞いた話と同じだった。ある記者が山本昌に焼き肉屋に連れて行ってもらったとき、山本昌が全部、焼いてくれたのだという話をしていたことがある。そのときも、恐縮して交代を申し出ると、やはりこう言われたのだという。

「いいの、いいの、好きでやってるんだから」

 開幕後1カ月ほどは防御率1位と快走していた山本昌だったが、5月に入るとにわかに調子を崩し、5月28日には登録を抹消されてしまった。

「いいときはいいけど、新しいフォームだから、崩れたときが怖いよね。直し方もわからないから」

 山本昌はそう話していたが、その心配が的中してしまった。

【次ページ】 山本昌に「賭けたくなるとき」がきっと来る。

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