プロ野球亭日乗BACK NUMBER
華々しい本塁打の影に貧打の苦しみ。
松井秀喜は“忍”の一字で機運を待つ。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byGetty Images
posted2012/06/10 08:01
レイズのマドン監督も「(松井秀喜の)状態はいい。ただ本当に運がないだけだね」とコメントし、松井の攻守にわたるプレーも褒めているのだが……。
内容は悪くないのに、結果が伴わない不運もあった。
確かにヤンキース戦を終えるまでの凡退には中身が伴っていた。
打球はきちっと角度がついて上がっている。3Aの試合では、どこか相手のタイミングでスイングしているように見えたのが、いまはしっかりと自分のタイミング、間合いでボールを捕らえられている。
だからむしろタチが悪いのかもしれない。
結果だけが思っているものと違うのだ。
いい感じでとらえた打球が正面を突く。鋭いライナー性の打球が、相手野手の好フィールディングに阻まれる。そうしてスコアボードには「H」のランプがなかなか灯らなくなっているのだ。
「打者に一番の必要な精神は忍耐」とミスターは説く。
「打者の好調は長くて3週間なんです」
こう語っていたのは、松井が師と仰ぐ長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督だった。
「その3週間を過ぎれば多かれ少なかれ、調子の波はくる。ただ、いくら調子が良くても結果に結びつかないこともある。そのときに結果を求めると、逆に好調の周期は短くなるんです。そういうときの一番の敵は、バッター自身の焦りなんです」
だから結果が出ないときほど、戦いの相手は自分自身だとミスターは説く。
「結果が出ないと、どうしても打ちたくてボールを追いかけるようになる。自分のタイミングでどっしりと自分の狙っているボールを待つのではなく、打てそうなボールにあたり構わず手を出してしまう。これがバッティングを狂わす原因になる。だから打者に一番必要な精神は忍耐なんです」
我慢できる心がトータルしたら高いアベレージを維持することにつながる。その教えを胸に刻み込んでいるから、松井はいま自分自身を戒める言葉を吐いたわけだった。
本塁打を追わず四球を選ぶ忍耐強さを松井は持っている。
「僕はことバッティングに関しては、我慢できるのが特性だと思います」
これは松井の自己分析だった。
「3打席連続ホーマーを打って10点差で勝っている最終打席。そこでボール球には手を出さないでフォアボールを選べるか。それともホームランを狙えると思ったら、ボール球にも強引に手を出して、結果的にホームランも打つかもしれないけど三振もする。それが松井と僕の違いだと思う」
かつて巨人で松井とクリーンアップを組んだことのある清原和博さんは、こうスラッガーとしての二人の違いを評していたことがあった。
まさに松井とはそんな男であり、そういう忍耐強い打者なのである。