スポーツで学ぶMBA講座BACK NUMBER
レアルとアヤックスの共通項は何か。
プラットフォームビジネスを考える。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byGetty Images
posted2012/05/29 10:30
17歳でアヤックスのトップチームにデビューしたデニス・ベルカンプは、ヨハン・クライフ監督のもとUEFAカップ優勝に貢献。インテルを経てアーセナルへ移籍すると、1997~1998シーズン、2001~2002シーズンにはリーグ優勝とFAカップ優勝の2冠を達成するなどの活躍をした。
プラットフォーム化したビジネスとは何か。
このように、レアルもアヤックスも、様々なグループが結びつく場としての存在価値を創りだすことで、顧客を増やしている。つまり、両クラブが「プラットフォーム」化しているといえる。
プラットフォーム化している状態とは、プラットフォームに参加する人が増えるにつれて、享受できる価値が向上するサイクルがつくられていることである。
そのサイクルを機能させるには、まずバイラル(口コミ)効果を狙った仕組みを作ることが重要である。口コミで、プラットフォームに参加する人の数を増やす仕組みである。
そして、もうひとつ重要なのは、粘着性を発揮する仕組みの構築である。参加した人々が他のプラットフォームにスイッチングすることを防ぎ、さらに利用頻度を増やす仕組み(粘着性)を築くことである。たとえば、アヤックスアカデミーでは、若手選手が無料でトレーニングを受けられるといわれているため、費用の心配がなくアカデミーに留まりやすい。
さらにアカデミーでは、サッカースキル以外にも、「フィジカル」や「コミュニケーション能力」「協調性」「洞察力」などサッカー選手に必要な幅広いトレーニングをアカデミー1カ所で受けることができる仕組みにしている。
これらは、若手選手の粘着性を高める仕組みの一例と言えよう。
このように口コミや粘着性が高まると、プラットフォームに参加する人が増える。そして享受できる価値が向上するサイクルが回りはじめ、「プラットフォーム化」していくのである。
プラットフォームビジネスの成否を分ける肝。
アヤックスアカデミーでは、優秀な若手選手を多く集めるために、希望者をすべて受け入れているわけではない。彼らは、長く厳しいスカウティングプロセスの中で選んだ選手しか入れない仕組みをとっている。
実はここに、プラットフォームビジネスの肝が隠されている。
より多くの顧客を得るためには、プラットフォームに参加する人数を増やすことだけに奔走しがちだが、人々が集まるのはアカデミーというプラットフォームの「質」が担保されているという前提があってのこと。したがって、プラットフォーム自体の信頼性という質を失うことのないようにしておくことが重要になる。
もし、誰でもがトレーニングを受けられるアカデミーであれば、アカデミーの質が下がり、ビッグクラブからの信頼も薄くなってしまうわけである。これでは、プラットフォームビジネスが成立しないのである。