プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ついに優勝も見えてきた、
アーセナル快進撃の理由。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2010/03/24 10:30
アウェイのハル・シティ戦で後半ロスタイムに決勝ゴールをあげたニクラス・ベントナー。数々の失敗にもめげない、ストライカーに必要な図太さを持っている
「本来の持ち場」で好調を取り戻した攻撃陣。
ラストスパートに向けて、好材料も揃ってきた。シーズン半ばからチームを支えてきたアレックス・ソング、デニウソン、アブ・ディアビーら守備的MF陣が好調を維持するなか、攻撃陣の調子が上がってきたのだ。
ニクラス・ベントナーは、チームの転機となったリバプール戦で3カ月ぶりの先発を経験して以来、ファンペルシの不在により、3トップの右サイドではなく、本人が「一番好きなポジション」と語る中央で生き生きとプレーしている。29節のバーンリー戦(3-1)では、7度のチャンスを全て逃してメディアで叩かれたが、シュートを除けば、センターフォワードとしての仕事ぶりは評価に値するものだった。
ベントナーの復帰前にアンドレイ・アルシャービンが1トップを任されていた時期にはほぼ無意味だった左右からのクロスも、ターゲットマンの登場でチャンスへと変わった。ベントナーはバーンリー戦終盤に交代を告げられベンチに下がることになったが、「こういう日もあるさ」とばかりに両手を広げて笑ってみせ、ストライカーに必要な図太さを感じさせた。
そのベントナーの自信は、続く3月9日のCLベスト16第2レグ・ポルト戦(5-0)で冷静なPKを含むハットトリックという成果をもたらした。相手が“プレーさせてくれた”こともあるが、ベントナーのサポート陣も「本来の持ち場」で能力を発揮した。セスクの欠場でトップ下に入ったサミール・ナスリは、積極的にボールを要求し続けると、ベントナーの先制ゴールにつながるパスを放ち、自らもドリブルからDF3人をまとめて抜き去りゴールを奪った。
重傷を負ったラムジーがチームの結束力を高めた。
左サイドから何度もチャンスを作ったアルシャービンはナスリ以上に輝いていた。ベンゲルが「稀有な才能だ」と認める1対1での強さを武器にベントナーの2ゴール目をアシストし、カウンターから完璧なタイミングでエマニュエル・エブエにラストパスを送っている。172cmと小柄なアルシャービンは、少し前まで「もう背は伸びないしさぁ」と苦笑しながらも、必死にセンターフォワード役に挑んでいたが、やはり天職はセカンドストライカーだ。ポルト戦から中3日のハル戦(2-1)でも得意のドリブル突破から先制点をあげた。
ただ、好調を支えるメンバーに、将来が嘱望されているアーロン・ラムジーの名前がないのは残念だ。19歳にして1軍定着を果たしたMFは、2月末のストーク戦(3-1)で激しいタックルを受け、右足の脛骨とひ骨を折る重傷を負った。
だが同時に、ラムジーを襲った不運がチームの結束力をより強めたことも事実だろう。ストーク戦の後半ロスタイムにダメ押しのゴールを決めたCBのトマス・フェルメーレンは、「アーロンのためにもタイトルを獲得してみせる。二冠だって可能だ」と力強く語っている。