野球善哉BACK NUMBER
伝統の一戦で見えた両チームの未来。
阪神×巨人戦の若手起用を検証する。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/09/26 12:10
今季は21試合に出場して打率.167の橋本到。原監督の育成にかける信念が垣間見れる重要な時期での大抜擢であった
「橋本の肩なら刺せるはず。あれを刺せる選手に」
原監督は、橋本のこのプレーを称賛していた。
「橋本の持ち味は何といっても肩です。あの場面では彼の持ち味を存分に出してくれました。鳥谷くんという素晴らしい足を持った選手を間一髪のところまで持って行ったのは彼の力量だと思います。存在感を見せてくれました」
試合後の橋本は悔しそうに振り返っていた。
「監督からは僕の肩を評価してもらっていた。(初スタメンは)代打で出るほど緊張しませんでしたが、あの場面、アウトかセーフかではなくて、ホームにちゃんとした球を投げられなかったことが悔しい。守備が僕のアピールポイントなので……それが本音です」
とはいえ、プロとして中堅の立場にいる鳥谷と真っ向勝負をしてみせたのである。CS進出が懸かる戦いの中で、21歳の橋本はプロとしての上質なプレーを見せたのだ。
この経験が将来に生きないはずはない。
巨人の外野守備走塁コーチの大西崇之は、あえて厳しい言葉を橋本に送る。
「橋本の起用は守備の期待があったから。マートンがヒットを打って、本塁へ投げたあの場面は外野手としては見せ場だし、あそこを刺してほしかったですね。確かに、あれはセーフになるタイミングだったと言われるかもしれませんが、コーチとしては、そう言いたくない。橋本がボールを捕った時、鳥谷は三塁を蹴って1歩か2歩だった。橋本の肩なら刺せるはず。あれを刺せる選手に、橋本にはなって欲しいんです」
失敗も含めて、橋本の未来に大きな糧となった一軍でのプレー。
試合は4-2で巨人が勝った。
橋本は7回に代打を送られて退いたが、「2打席目の三振の内容が悪かった」と話しているように、反省と成長の日々は続く。そして、本人自身「CS進出をチームが争っている時に、チャンスをもらえているのはありがたいこと。試合に出る限りは、チームの勝利に貢献することだけを考えてプレーしますが、長くプロの世界でやっていくためにも、今年は結果を恐れずにやりたい」と前を向いている。
今後、橋本がどれほどの期間一軍にいられるかは分からないとはいえ、貴重な体験ができたことは間違いない。