スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「ポスト・シャビ」のバルサ未来形。
圧倒的破壊力の3-4-3をひも解く。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2011/09/09 10:30
ビジャレアル戦、ベンチスタートのシャビ(中央)。自分自身がいない「バルサ」をどう見ていたのか
カンテラ一貫教育の成果が現れた新加入セスクの連動性。
MFを3人から4人に増やしたメリットはボールポゼッションの安定にもつながった。ピボーテを務めるケイタの前にはイニエスタ、セスク、チアゴという超一流のパサーが並び、さらに世界一キープ力の高いメッシが頻繁にパス回しに加わるのだからそれも当然である。対するビジャレアルもロッシを1トップ、ニウマールを右サイドに置く4-2-3-1の並びで中盤を厚くしてポゼッション勝負を挑んだのだが、MF4人+メッシのバルサを前には手も足も出なかった。
ただ、単純に人数を増やせば良いというわけではない。ルイス・アラゴネス時代のスペイン代表が時にそうだったように、似たタイプのMFを何人も起用するとそれぞれの役割分担がはっきりせず、動きがかぶってお互いを消し合ってしまうことがあるからだ。
ビジャレアル戦のバルサを見て凄いと思ったのは、その点で全く問題が見られなかったことである。具体的には両サイドMFのイニエスタとチアゴがある程度ライン際まで開いてプレーすることで、前から降りてくるセスクとメッシが自由に中央のスペースでボールを引きだすことを可能にしていた。加入したてのセスクがここまですんなりと連動できているのは、カンテラ一貫教育の賜物としか言いようがない。
3-4-3の布陣では両ウイングが損な役回りを強いられる。
良いこと尽くしに見えたビジャレアル戦の3-4-3だが、一方でデメリットというか、損な役回りを強いられた選手もいた。両ウイングである。
4-3-3では両サイドバックの攻め上がりで大外のスペースをカバーできるため、ウイングにはサイドに張りだすだけでなくペナルティエリア内に侵入するプレーが求められる。だがサイドバックがいない3-4-3ではウイングが攻守ともにライン際まで開いてプレーしなければならないため、必然的に相手ゴールの近くでプレーする機会が減ってしまうのだ。
グアルディオラは試合後の会見で「SBがいないこの布陣では、ウイングがポジションを崩さず我慢強くプレーすることが求められる」と言っていたが、これは特に点取り屋のビジャにとってはストレスが溜まる役回りである。一方、労を惜しまず攻守にハードワークできるペドロ、SBのフォローがなくとも単独でドリブル勝負を仕掛けることができるアレクシス・サンチェスらは、3-4-3のウイングにはうってつけの選手だと言える。