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“ホームランバッター版のイチロー”
中村剛也が56本塁打を実現する日。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/07/27 11:35
大阪桐蔭高時代は1学年下にいた西岡剛より足が速いと言われ、走塁センスも打撃以上に優れていたという中村剛也。昨季は、頬骨骨折や右肘の遊離軟骨除去手術なども経験し、満足な形でのプレーができず、成績を残せなかった
中村剛也のすごさは、要は、ホームランバッター版の「イチロー」なのだと理解すればわかりやすいかもしれない。
大阪桐蔭時代の監督で、中田翔の恩師でもある西谷浩一は、中村をこう評する。
「中村は高校時代に80本以上、ホームランを打っていますけど、僕の中では、パワーヒッターというよりはテクニシャンなんです。あんなに柔らかいバッター、見たことがないですもん。だから『一発屋さん』みたいに見られるの、僕はすごく嫌なんです。高校時代は三振なんて、ほとんどしたことなかったですから。それが今は、あんな空振りするんや……って。中田が40本打って、200三振というのならわかる。でも中村は、選球眼もいいし、もともとは率を残せるバッター。プロでも三冠王をねらえるような数少ないバッターだと思うんですよ」
しかし、中村は、それでもあえてホームランに特化したのだ。
「3割打ちたいかって言われたら打ちたいですけど、それを求めるとホームランが減るかもしれない。3割打てる打者はけっこういますけど、ホームランを40本以上打てるバッターはそうはいない。だったら、そっちを目指した方がいいのかな、って。打率も、ってなると、どうしても全部の球を当てにいってしまうような感じになる。それが嫌なんです。そっちは、課題をクリアしたときに……って考えてるんで」
中村が言う課題とは、1本でも多くホームランを打つということである。もっと言えば、王貞治らが持つ1シーズンの本塁打記録55本の更新だ。
「目標とかを立てるのはあんまり好きじゃないんですけど、立てるとしたら、55本、56本でしょうね」
イチローは長打を捨て、安打数を極める道を自ら選んでいる。
かのイチローが「1シーズン、ホームランだけをねらえば30、40本は打てるのではないか」というような話をしていたことがあった。イチローは、長打も人並み以上に打てるが、そこを切り捨て、安打数を極める道を選択したのだ。実際、イチローは打撃練習では、そこそこの長距離打者よりも、はるかに簡単にスタンドに放り込んでいる。
イチローが行った作業は、言ってみれば、果物の剪定作業のようなものだ。より品質の高い果物をつくるために、余分な花を摘み、ポテンシャルの高そうな花に栄養を集中させたのだ。