Column from SpainBACK NUMBER
バルサ2冠のMVPは彼しかいない。
――名将グアルディオラの誕生。
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byAtsushi Kondo
posted2009/05/19 06:00
チームのあらゆるディテールをコントロールするペップ。
監督はまた、守備陣にある作戦を授けた。
ゴールキックの際、GKピントはボールをゴールのほぼ正面に置け。そうしたらピケはペナルティエリアの右外に、プジョルは左外に開け。
助走を付けたピントは前へ強く蹴るふりをして、ほぼ真横にいるピケへ出していた。ゴールラインぎりぎりの深さでボールを受けた彼は、敵のプレッシャーをいなしながら、なんとかそれを前へ運んで行った。
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「浮き球に対しては(身体の大きな)アスレティックに分がある。だから、長いパスは蹴らないようにしたかった。ボールをしっかり廻していきたかった」とグアルディオラは簡単に言うが、ゴール前で自らパスを繋いでいく恐ろしい策である。
だが、効果はあった。アスレティックの陣形は縦に伸び、プレスは空転。バルセロナはみるみる疲れていく敵のプレッシャーから解放されていった。
「俺はリスクを背負うことになった」とピント。
「でも、おかげで仲間はスペースを得た。信じられないかもしれないが、監督は俺たちのサッカーの、ありとあらゆるディテールをコントロールしてるんだ」
実際、試合後のロッカールームには、ゴールキック時の選手の立ち位置が記されたホワイトボードがそのまま残されていた。
ピントがピケにボールを渡したら、相手はこの方向からプレスをかけてくる。だから、ブスケッツはここ、ヤヤはここに立ってパスコースを作れ――。
きっとそんな説明がされたのだろう。選手らしき印が、幾つもの線で結ばれていた。
グアルディオラは38歳にして選手から完璧に信頼されている。
試合後、初のタイトルに喜ぶグアルディオラは「全て選手のおかげ。どんなアイデアも巧く実行してくれる選手たちは素晴らしい」とへりくだっている。
だが、チーム関係者の見方は違う。
「本当に素晴らしいのはグアルディオラが完璧に信頼されていることだ。今回の作戦にしても、リスクはあるのに、聞かされた選手たちはうまく行くと信じて疑わなかった」
国王杯獲得の3日後、バルセロナはリーガの優勝も決めた(2位レアル・マドリーがビジャレアルに敗れたため)。
経験ほぼゼロで始めた監督が、初年から2冠。実質世界最高のタイトルであるCLにも王手をかけている。
バルセロナの場合、勝って褒められるべきはまずグアルディオラだ。