濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
『Krushライト級GP』という、
危険で濃密なジェットコースター体験。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2009/11/19 10:30
準決勝2R、竹内がラッシュしたきたところに、石川の飛びヒザが絶妙のタイミングで決まりKO勝利。しかし石川は、直前に受けた右フックで左まぶたの筋膜にまで達する裂傷を負い、無念のドクターストップとなった
ジェットコースターに乗せられたような気分だった。それも猛スピードで、極端に高低差があり、なおかつどこがゴールか分からないジェットコースターに。
11月2日、後楽園ホールで開催された『Krushライト級GPファイナル』は、そういう大会だった。あらゆることが、予測の範疇を超えていた。
“主役退場”からドラマはさらに加速。
まずは準決勝第1試合。8月の開幕戦(1・2回戦)を連続逆転KOで勝ち上がった石川直生が、ここでも神がかり的な闘いを繰り広げる。序盤は“狂拳”竹内裕二の(リングネーム通りの)KOパンチを避け、遠い間合いからの蹴りでリズムを掴む。誰もが判定決着を予感するペースだ。
だが、2ラウンド終盤に竹内がラッシュ。ロープを背負い、窮地に陥った石川は、その瞬間に右ハイキックを放つ。これがブロックされると、続けざまに逆方向から左の飛びヒザ蹴り。完璧に決まった一撃で竹内は大の字に倒れ、そこで試合は終わった。またしても石川の逆転KOである。
それでも、動き出したジェットコースターは止まらない。勝った石川に目を移すと、悔しげに顔を歪め、マットを叩いて絶叫しているではないか。フィニッシュの直前、竹内のパンチで左目の上から出血していたのだ。傷を見る限り、決勝戦を闘える状態ではないのは明らかだった。
決勝進出のはずの石川がドクターストップで棄権。
竹内のラッシュ。石川が右ハイを繰り出し、着地した蹴り足でそのまま踏み切って飛びヒザへ。竹内が倒れ、レフェリーがKOを宣告し、しかし石川が出血していることにも気づく――。10秒にも満たない時間の、なんと激しく濃密だったことか。見る者の感情は揺れ動き、かき乱された。分析したり余韻を味わったりする余裕などどこにもなく、ただ翻弄されるしかなかった。
休憩明け、石川のドクターストップが正式にアナウンスされる。これで、GPは事実上、終わったはずだった。棄権者が出たトーナメントでは“最強”は決まらない。しかも戦線から離脱したのは、最も会場を沸かせた石川なのだ。メインイベントとして行なわれる決勝戦は“消化試合”にしか思えなかった。