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田中将大の恐るべき「胆力」で、
楽天はCSへの進出を目指す。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/09/07 12:40
なんとも贅沢な時間だった。
8月の25、26、27日、9月1、2、3日と、至極の投手戦が続いた。前者は西武ドームでの西武対楽天戦。後者はKスタ宮城での楽天対西武戦だ。
両チームは現在、クライマックス・シリーズ進出に向け、し烈な3位争いを繰り広げている。その上、西武には涌井秀章、楽天には岩隈久志、田中将大という日本を代表する投手がいる。おもしろくないはずがない。
そんな中でも注目したいのは、やはり田中の勝負強さだ。8月27日は8回を無失点で抑え、4-0で勝利。さすがと思わせたが、9月3日は逆に7回で4失点しKO。0-4で敗れている。
絶体絶命のピンチで、捕手を逆に励ましていた田中。
なんという胆力なのだろう――。
最初にそう思ったのは、高校3年生のときだった。
'06年、夏の甲子園。田中を擁する駒大苫小牧は、3年連続で決勝戦まで駒を進めていた。相手は「ハンカチ王子」こと、斎藤佑樹がいる早実だった。
1-1の同点で迎えた延長13回裏。2死二塁から、田中のショートバウンドしたスライダーを捕手が後逸し(記録はワイルドピッチ)、三進を許してしまう。
そんなときだった。動揺した様子を見せる捕手に対し、田中は顔色ひとつ変えずに「大丈夫、大丈夫」と声をかけたのだ。あの場面、あんな表情で、あんな風に声をかけられたら、本当に大丈夫なんだろうな、そう思わせるような力があった。
2死三塁となった後、駒大苫小牧は満塁策を選択。そしてその言葉通り、田中は絶体絶命のピンチを二塁ゴロで切り抜けて見せた。
あの場面、捕手が投手を励ますというのならわかる。だが、逆というのは初めて見た気がしたものだ。
プロ入りした田中は、その「胆力」でチームを引っ張る。
そんな頼もしさは、プロに入ってからも同じだった。
プロ入り一年目、バッテリーを組む嶋基宏がこんなことを話していたことがある。ちなみに二人は同期入団ではあるが、大学出の嶋は田中より4つ年上になる。
「明らかに向こうの方が(立場は)上ですね。もう、完璧に。ピンチになったら、勝手にカーッとなって集中してくれる。いい方のカーッですよ。僕の方が年上ですけど、正直、自分が引っ張っているとは言えませんね」