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ダルビッシュ有、一世一代の投球!
恋女房も捕れなかった“驚異の4球”。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/11/02 12:30
鶴岡が1試合で4度も同種のボールを後逸するという異常。
今年の春先、Number誌上で「速球に磨きをかけたい?」という質問に対し、頑なにこう言い続けた。
「ストレートだけに自信を持っているわけじゃなくて、全部の球種に自信を持っている。全部を磨くことが大事」
左臀部や腰に痛みを抱えているためか、この試合でのダルビッシュは、下半身主導というよりは上半身に、特に腕の振り、手首の捻りに意識を集中していたように思えた。
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それを裏付けさせたのが、4球のスライダー。
3回表の坂本勇人への1球目と3球目、6回表の亀井義行への4球目と谷佳知への3球目のスライダーを、捕手の鶴岡慎也は後逸した。キャッチングにも定評があり、何よりダルビッシュの恋女房である鶴岡が、1試合で同じボールを4度も後ろへ逸らすなど常識として考えられない。それほど、変化球の切れが鋭かったということだ。
5回表の2死満塁で小笠原道大を迎えたときなどは、'02年の松坂と明らかに違うものだった。1、2球目は148km/hのストレート。これほど力のあるボールが投げられるのであれば、真っ向勝負を挑んでもよかったのかもしれない。だが、3球目をスローカーブでタイミングを外し、4球目に内角低めに曲がるスライダーで空振り三振に打ち取った。
「力で捻じ伏せる」という言葉があるが、投手においてはストレートで押すだけが力のある投球ではない。
ダルビッシュの「札幌で決めます!」。先発宣言か?
ダルビッシュは6回を7安打2失点の内容に対し、降板直後に「本来の調子には程遠かった」とコメントを残したが、同時に「一世一代の投球ができました」と付け加えている。全部の球種に自信を持ち、常に磨きをかけていたからこそ、“変化球という力で相手を捻じ伏せる”ことができた。だから、一世一代という自己評価はなんら大袈裟なものではないのだ。
試合後のヒーローインタビューで彼は、「札幌で決めます」と高々に宣言した。移動日を含めれば、再び本拠地決戦となる第6戦まで中5日。故障は完治しないだろうが、ひょっとするとその言葉は、中継ぎでも抑えでもなく、「先発できますよ」というGOサインなのかもしれない。