セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
名門ミランの逆襲が始まる。
~CL・レアル戦勝利から得たもの~
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2009/10/31 10:00
パトとロナウジーニョがようやく本来の力を発揮しはじめた
欧州を代表する名門同士の一戦となったチャンピオンズリーグのレアル・マドリー戦で、ミランは大方の予想を覆して逆転勝ちを収めた。「この試合がシーズンの分水嶺になるとは思わない」とレオナルド監督は冷静を装ったが、2得点したFWパトは「今夜が大事なリスタートだと信じる」と力強く言い切った。序盤のもたつきから“死に体”かと思われていたミランが、CLをきっかけにセリエAでも息を吹き返しつつある。
第8節までは悲惨のひと言。レオナルドは辛抱強く待った。
8節ローマ戦までは悲惨の一言に尽きた。奪ったゴールはわずかに4、勝ち点9で10位という低迷ぶりに「ここ30年で最悪の部類に入る」とメディアは新人監督を叩きまくった。7節アタランタ戦前には、テリム監督以来となる8年ぶりの途中解任が現実味を帯びた。後任候補として名前が挙がったファンバステンも「補強なしのクラブが勝つことは不可能。彼にできることは限られている」と同情を寄せた。それでもレオナルドは選手たちを信頼し、「現有戦力でも勝てる」と言い続けた。
昨季からの変化で顕著なのは、アンチェロッティ時代に見られた固定起用の発想を捨て、各ポジションに危機感と競争を持ち込む狙いで、極端なターンオーバーが恒例になったことだ。4-3-1-2から4-4-2へ、はたまた4-2-3-1から4-3-3へ、戦術も試合ごとに目まぐるしく変わる。思ったような結果が出ずとも、レオナルドは決して選手を責めない。フィジカル・メニューの改良や戦術スカウトの強化といった細部の見直しを積み重ねながら、「峠を過ぎた」と言われる選手たちのモチベーションに再び火が点くのを辛抱強く待ってきた。
ミランに火をつけた「別れた恋人」カカの冷たい言葉。
「ミランには早い段階で消えてもらった方がいい」
カカから非情な言葉が届いたのは、CL第2節で格下チューリッヒに敗れた直後だった。6年の蜜月のあと、“新銀河系”へ去っていったカカは、ミランにとって 「未練を残しながら別れた恋人」のような存在。なおも放出ショックを引きずっていたミランは、このとき初めて「美しい過去と決別するときがきた」と認識した。
調子の上がらないままだったロナウジーニョは、「カカを倒す」と発奮。直前のローマ戦でレオナルドに先発を直訴して1ゴール1アシストの活躍、開幕戦以来ゴール欠乏症に陥っていたパトをも甦らせた。セードルフとピルロは華麗なプレーを捨て、相手DFとの削り合いにも果敢に応戦し、ローマを気迫で圧倒した。
闘争心の塊となったミランはベルナベウに乗り込み、捨て身ともいえる戦いぶりでレアルを撃破した。カカは試合後、「あんなにアグレッシブなミランは予想していなかった」とうなだれた。レオナルドは「テクニックや戦術でいかに優れようとも、闘争心がなければ真の勝者にはなれない。グリンタ(=根性、ガッツ)の勝利だ」と強調した。レアルに挑んだチームこそ、レオナルドが求めていたミランだった。