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今の時代、本当に必要な監督力とは?
仰木彬と星野仙一、「怖さ」の違い。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2011/06/13 11:35
「知将」「魔術師」と呼ばれた恩師・三原脩の薫陶を受け、ついには名将となった仰木。「仰木マジック」と呼ばれた名采配は、「三原マジック」に倣った称号である
見える怖さと、見えない怖さがある。言うまでもなく真に怖いのは後者だ。
そんなことを考えたのは、楽天の監督、星野仙一が、チームの負けが込み始めると同時に「ぶち切れた」「ドアを蹴飛ばした」といった報道を目にする機会が増えてきたからだ。
確かに、怒ったときの星野は迫力満点である。若いときは、さらに怖かったという。
だが、そうして怒りを表に出せば出すほど、正反対の感情が涌いてくるのも確かなのだ。星野という人物は、温情と非情、両面から語られる人物だが、どちらかといえば、温情の人なのではないか、と。
近鉄から始まり中日など国内5球団を渡り歩いた捕手、光山英和(西武バッテリーコーチ)がこんな話をしていたことがある。
「星野さんは大声を出すし、手も出す。でも、わかりやすいじゃないですか。不気味な怖さはない」
つまり、見えない怖さは、あまり感じさせないということだ。
鈴木啓示、星野仙一、長嶋茂雄、森祇晶……一番怖いのは仰木。
光山はこれまで、仰木彬、鈴木啓示、佐々木恭介、星野仙一、長嶋茂雄、山本功児、森祇晶と7人の監督に仕えた経験を持つ。
その中でもっとも恐怖感を覚えた指揮官は、近鉄時代の仰木彬だと話す。
「みんな仰木さんのええところばかり見過ぎですよ。阿波野(秀幸)さんとか野茂(英雄)とか、一流どころには何も言いませんよ。そういう選手は、何も言わなくても結果を残しますから。でも僕らみたいな一流半の選手にはめちゃくちゃ厳しかった。言葉で言うことはほとんどないんですけど、試合でミスをした次の日、球場内の通路ですれ違ったときに、何も言わずにじっとにらまれたりね。そんときは、通り過ぎても、なんか変な感じがしたから振り返ったら、まだこっちをにらんでたんですよ。あのときは怖くて気持ち悪くなりましたね。あとは采配です。早め早めの交代で選手を締めていた」
まだ正捕手になる前、光山は野茂の専属捕手のような立場にいたことがある。その頃の話である。
「ノーアウト満塁で監督が出てきた。ピッチャー交代かと思ったら、キャッチャー交代、って。キャッチャーとしてあれほど恥ずかしいことないですよ。1年で6回ぐらい登録抹消された年もありましたからね。これ、記録ちゃうかなって思った」