リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
レアル・マドリー、その窮地の全貌。
格下に惨敗から監督退任騒動まで。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byMutsu Kawamori
posted2009/11/06 10:30
ヘタフェ戦、後半8分、11分と連続ゴールを決め、チームを勝利に導いたFWゴンサロ・イグアイン。C・ロナウド復帰まで、守備でのキーパーソンでもある
奇跡的なゴールで首の皮一枚繋がったペジェグリーニ監督。
勝利しか許されないヘタフェ戦のレアルは当然、固い動きに終始した。
一刻も早く先制したいという思いは完全に空回りし、縦へと急ぎすぎる攻撃はバランス良いヘタフェ守備網を崩しきることができない。個々の突破力によってシュートまで持ってはいくものの、コースを限定されたシュートはヘタフェGKウスタリに阻まれ続けた。さらに縦へと急ぎすぎる攻撃は前線、中盤、最終ラインの距離を大きく広げることとなり、手薄になった自陣に放り込まれたボールを争ったCBアルビオルが一発退場となるファウルを犯して、レアルは前半で10人となってしまう始末。
一人少なくなった上にゴールを奪えないまま前半が終了した時、ペジェグリーニに残された監督としての時間は45分間しかないというような重苦しい雰囲気がレアルを包んでいた。
だが、後半序盤に“奇跡的なゴール”をレアルは生み出した。
CBセルヒオ・ラモスが自陣から放ったパスをFWベンゼマが左SBマルセロに落とすと、マルセロはツータッチ目でクロスを放った。ラモス、ベンゼマ、マルセロと精度の高いパスが一瞬で繋がった攻撃はこの試合で初めて、ヘタフェ守備網を崩した。そして、マルセロからの完璧なクロスを受けたFWイグアインがゴールを決めて、レアルは起死回生のゴールを手にしたのだった。その後、レアルは守備を固めてからのカウンターで追加点を奪い、2対0で勝利。ペジェグリーニの監督のクビはかろうじて繋がった。
華麗なプレーでミランを圧倒したレアルは息をふき返した。
最初のテストをなんとかクリアしたレアルとペジェグリーニ監督は、まさに背水の陣の面持ちでミラノに乗り込んでいった。
ACミランホームでの公式戦は過去5戦全敗という、レアルにとってまさに鬼門であるサンシーロ。だがこの試合の前半戦、レアルは今季最高という評価を受けるほどの華麗な攻撃を披露した。
メンバーはヘタフェ戦と同じだったものの、レアルは複数の選手がサポートし合える距離を保ってボールを動かし、守備を固めたミラン守備網を常に揺さぶった。さらに、右SH不在のフォーメーションにもかかわらず、チーム全体の守備意識が高いことを象徴するかのようにFWイグアインまでもが右サイドをカバーする守備的プレーを見せ、それがさらにチーム全体のバランスを整えることにも繋がった。
アウェーにもかかわらず終始ミラン陣内で試合を展開したレアルは、前半28分にカカのシュートのこぼれ球をベンゼマが決めて先制に成功。しかし前半34分、今度はACミランのカウンターからのクロスをペナルティエリア内で体を投げ出して止めに入ったCBペペにミスが出る。彼の手にボールが当たりPKの判定が下されたのだ。これをロナウジーニョが冷静に決めて1対1で前半は終了した。
ミラン戦で引き分けたレアルに、さらなる課題が残される。
同点にこそされたものの、連動性と個人技を織り交ぜた攻撃でミランを圧倒したレアル。しかし後半に入ると前半は右サイドの守備にあれほど貢献していたイグアインの運動量が目に見えて落ち始め、徐々に全体のバランスが崩れ始める。高い位置でボールを奪えなくなったレアルは前半のような波状攻撃を仕掛けることができなくなり、逆にミランに鋭いカウンター攻撃を許すこととなった。
それでも後半終盤にペジェグリーニ監督はイグアインに代えてラウルを投入という機敏な采配を見せる。これによってわずかにバランスを取り戻したレアルは、結局それ以降たいした危機を迎えることもなく引き分けで試合終了のホイッスルを聞いた。