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夏の甲子園、混沌とする優勝戦線。
~菊池の変調と伏兵の浮上~
text by
小関順二Junji Koseki
photograph bySPORTS NIPPON
posted2009/08/18 12:00
菊池は長崎日大戦で3本の本塁打を含む9安打5失点、横浜隼人戦では5安打1失点でいずれも完投した。
今大会前、甲子園は菊池雄星(花巻東)フィーバーに沸いた。“20年に1人”という形容があらゆる媒体に紹介され、筆者もそう思った。しかし、初戦の長崎日大戦を見てアレッと思った。正確に言えば、試合前のブルペン投球を見て、首をひねった。
そこには、ヒジを最初からまとめてテークバックに入る菊池がいた。こんなフォームの菊池は見たことがない。バックスイングで腕が振れないから、投げに行くときは腕を押し出すような形になる。ヒジの下がりがスカウトから指摘されたが、むしろ早すぎるヒジのまとめがピッチングの形を崩す元凶になっているのではないか。
ストレートは左打者の内角方向に抜け、低めは今春のセンバツのときのような伸びがない。それは二回戦の横浜隼人戦でも同様だった。「ヒジを早くまとめる」「バックスイングで腕を振らない」――今、肩が痛いのか、少し前まで痛かったのかはわからないが、それは肩の負担を軽くしようとする意思の表れのようにも見える。
明豊、智弁和歌山、PLが好調
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この菊池が万全でない今、優勝戦線は混沌としている。地方予選からひと通りチームを見て、優勝候補は九州国際大付、帝京、中京大中京、花巻東と予想していたが、九州国際大付は機動力のなさ、帝京は敦賀気比戦の終盤での走塁ミスの連発(つまり粗い試合運び)、中京大中京は投手力の弱さ、そして花巻東は菊池の変調がネックとなって、いずれも絶対的な存在ではなくなりつつある。
その間隙を突いて、今宮健太を投打の軸に据える明豊、エース岡田俊哉が絶好調で大会に入った智弁和歌山、さらに聖光学院との強豪対決を制したPL学園が伏兵に浮上したというのが、8月17日まで見た印象である。
打撃センスが光る堂林と国枝
個人に目を移すと、投手ではすでに名前が出ている菊池、岡田、今宮がスカウト垂涎の的で、敗退組では秋山拓巳(西条)、安達央貴(華陵)、山田修義(敦賀気比)が来るドラフトで指名を待つ。
打者では堂林翔太(中京大中京・投手)、国枝頌平(九州国際大付・三塁手)が、それぞれ2試合を終えた時点で超高校級の実力を発揮している。2人ともほとんどの球を自分のタイミングで待てるという稀有なバッティングセンスの持ち主で、堂林は龍谷大平安戦の3点目を叩き出す中前打、関西学院戦の先制の二塁打など、実戦で勝負強さを遺憾なく発揮している。
優勝争いを左右するのは彼らの一投一打か、それともマスコミが注目していない伏兵か。夏の甲子園はこれから佳境に入っていく。