野球善哉BACK NUMBER
帝京が見せた優勝候補のプライド。
敵エースの決め球を攻略しろ!
<'09年夏の高校野球レポート>
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/08/17 13:00
春・夏通算3度の全国制覇を誇る帝京のプライドを見た。
大会7日目(16日)第2試合。初戦に挑んだ帝京は敦賀気比(福井)と対戦した。持ち前の攻撃力を発揮し、1回表に2点を奪うと、3回表にも3点を奪い、5-1で勝利することとなった。
この試合、注目されたのは東東京大会で.380の打率を誇り、決勝戦で24点を挙げた帝京の打線が、同じく県大会で49三振を奪った相手左腕・山田修義とどう対峙するかだった。
試合前、帝京・前田三夫監督は、好投手との対戦に際しての目論見をこう話していた。
「山田君は素晴らしい投手。いずれ、上の世界で活躍するような選手でしょうね。その山田君に対して、ウチの打者が低めのスライダーに手を出さずに、彼のストレートとスライダーを打つことができるか」
敦賀気比・エース山田の低めのスライダーをどう攻略するか?
山田は184cm・78kgの恵まれた体格から切れのあるストレートとスライダーを投げ込んでくる。特筆すべきは右打者インコースへの球で、この2種類の球種で容赦なく攻めてくる。インコースのストレートは腰をうまく回転させないと打てないだろうし、かといってそれを意識しすぎると、スライダーは打てなくなる。
前田監督はそのことを危惧していたようだった。
ただ、この指揮官の言葉に僕自身は引っかかった。というのも、前田監督は彼のスライダーに対し、「低めには手を出してはいけない」としながらも、「スライダーを打てるか」と話しているからだ。
スライダーを本当に狙いに行くのか? 捨てることはしないのか?
僕は、そこが気になった。
問い質すと前田監督は即答した。
「スライダーには挑ませたいですね。もちろん、低めに手を出してはいけませんけど。あのスライダーが打てるかどうか……なんとか選手たちには挑ませたい」
帝京打線が初回からスライダーに食らいついた!
一方、敦賀気比側のスタンスはというと、「山田が本当に全国区の投手なのかどうか。僕自身が楽しみ」と敦賀気比・林博美監督は話している。
いわば、「帝京VS.山田」の真っ向からの対決が、この試合の争点だった。
東東京大会でチームトップの11打点、打率4割を超える6番・星宏樹は「山田君のような好投手と戦えるのが、甲子園ならではだと思うので、チームで山田君を打ち崩したい」といい、敦賀気比・山田は「相手は優勝候補ですけど、自分たちの野球をして、チームが勝てばいい」と意気込んでいた。
試合開始。先攻の帝京がいきなり仕掛ける。ポイントとなったのは、前田監督が試合前に掲げていたとおり、帝京打線のスライダーへの対応だ。