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鉄平は“控え目なイチロー”!?
楽天のCS進出を支える安打製造機。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNaoya Sanuki
posted2009/09/09 12:20
9月5日の東北楽天対北海道日本ハム戦。結果は3対10と大敗を喫したが、初回の東北楽天の得点は理想的だった。
2死無走者ながら3番の鉄平が二塁打を放つと、続く4番の山崎武司がレフトスタンドに放り込み2点を先制。首位打者と本塁打ランキング2位の打者による効果的な得点パターンは、「10安打で1点を取るのが楽天野球」とボヤく野村克也監督をいい意味で裏切った。クライマックスシリーズ進出を狙うチームにとってはとても重要な2得点だったのだ。
これまでの東北楽天であれば、2死後、簡単に三者凡退となっていただろう。だが今年は、3番に鉄平が固定されていることでそんな展開になりにくい。しかも次の山崎には抜群の得点能力がある。他チームにとって東北楽天は、実に厄介な相手になったわけだ。
高校時代“九州のイチロー”だった男が首位打者を目指す。
特に今シーズンの鉄平は、「鉄平様様」と指揮官を唸らせるほどの信頼を得るなど、チームの躍進に貢献。現在、2位の糸井嘉男(日ハム)に1分以上の差をつけて首位打者の座についている。8月には打率4割2厘をマークし、プロ9年目にして初の月間MVPにも輝いた。
津久見高校時代は「九州のイチロー」と呼ばれ、通算打率は5割5分1厘とずば抜けた数字を残したものの、2000年に入団した中日では守備・代走要員に終始した。東北楽天に移籍した'06年こそ3割をマークしたが、以後2年間は満足のいく結果は出せなかった。それだけに今年の数字は自身にとっても大きな飛躍となっているはずだ。
だから、例えば自分が鉄平の立場だったら月間MVPでの受賞コメントは、自分の気持ちを前面に出してこんな具合にしていたと思う。
「一度は獲りたいと思っていたので、本当に嬉しいです。もっと上を目指して頑張ります」
でも、実際の彼のコメントはこうだった。
「ホームランも打点も打率も全部、上出来です。9月もチームに貢献できるように頑張らないといけませんね」
感慨深いに違いないはずなのに、自分の気持ちを出した喜びと分かるフレーズがどこにもない。それどころか、あまりにも客観的でルーキー並に謙虚だ。
いつも極端に淡白なコメントしか残さない鉄平。
思えば、8月5日に21試合連続安打の球団記録に並んだときも、その日の3安打についてはそれ相応のコメントを残しているが、連続試合安打については「はぁ」とだけしか答えていなかった。
翌日に記録を更新した際も、「抜くことができてよかった……」と控えめにポツリ。
8月9日に記録が24試合でストップすると、「今日で(連続試合安打が)止まったのは、想定内といえば想定内」とシラッと答えた。なにせこの試合の相手投手は、鉄平本人が「本当に苦手」と語るほどの難敵、北海道日本ハムの武田勝だった。この試合も含めて通算25打数2安打とほぼ完璧に封じられているのだから、公然と白旗を揚げるのも仕方がないといえば仕方がないのだが。