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重心の低さ。 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byDaisuke Nakashima

posted2008/10/14 00:00

重心の低さ。<Number Web> photograph by Daisuke Nakashima

 マルコス・セナ。僕はいま、ビジャレアルに所属するブラジル生まれの32歳こそ、最も旬な選手だと思っている。

 '05年にスペイン国籍を取得。'06年ドイツW杯とユーロ2008にスペイン代表として出場し、特にユーロ2008では、スペインの優勝に貢献した。

 僕的には、ユーロ2008のMVPは彼だと思っているのだが、それはともかく、今季に入っても、その好調は維持されている。ユーロ2008を経て、いっそう偉大な選手に変貌を遂げた様子だ。32歳になって、まだ進化しているように見える珍しい選手。

 何しろ視野が広い。だからプレイがシンプルだ。慌てた感じは一切ない。いつでも余裕が感じられるのだ。操縦桿を巧みに操り舵を取るまさに名ボランチ。同じく、スペイン代表でリバプールに所属するバスク人、シャビ・アロンソも視野が広くて、パスワークに優れた選手だが、マルコス・セナを見ていてイメージがダブるのは、デポルティーボで活躍した元ブラジル代表の名ボランチ、マウロ・シウバだ。

 マウロ・シウバの先輩で、同じくデポルティーボで活躍したドナートにも似ている。こちらもブラジル生まれの元スペイン代表。そうした意味ではマルコス・セナの先輩に当たるわけだが、ドナートもまた肌の色は褐色で、身のこなしの鮮やかなボランチだった。

 ドナートやマウロ・シウバのほうが、マルコス・セナより多少ずんぐりむっくりしているが、褐色のブラジル人らしい綺麗な身のこなしはそっくりで、汚い反則をしそうにもないフェアさという点でも一致する。

 彼が所属するビジャレアルも好調だ。スペインリーグでは現在第2位。チャンピオンズリーグでも、昨季の覇者マンUとグリープリーグで首位の座を争っている。

 ビジャレアルの顔ぶれはいたって地味だ。好選手は多くいるが、有名選手は少ない。「全国区」の選手は、マルコス・セナを除けば、ピレスぐらいしかいない。にもかかわらず、マンUとアウェーで引き分けている。11月25日のホーム戦では、勝利を飾りそうなムードさえ漂わせている。

 ビジャレアルは初出場した前回、'05-'06シーズンに、準決勝に進出している。アーセナルに0-1(アウェー)、0-0(ホーム)で敗れ、惜しくも決勝進出を逃した過去がある。当時の中心選手はリケルメだった。その第2戦の終了間際に得たPKを、彼が外し万事休すとなったわけだが、当時のチームはまさにリケルメのチームだった。全ての攻撃は、リケルメ経由で進行した。もちろんマルコス・セナもスタメン選手として活躍したが、地味な裏方の一人に過ぎなかった。

 しかし、今回のチームにリケルメはいない。濃いサッカーをしたがる選手はいない。マルコス・セナ中心という言い方はしたくないが、それが現実だ。決して派手ではないボランチが、まさに操縦桿を握るがごとく、低い位置でチームを操るわけだ。それは言い換えれば、2年前より「司令塔」の位置が低くなったことを意味している。

 「2トップ下」「10番」「攻撃的MF」「ファンタジスタ」が、司令塔と同義語として扱われがちな日本のサッカーとは違うのだ。リケルメがいた2年前は日本的と言えたが、今はそうではない。

 で、少なくとも僕は、低い位置に司令塔がある、いわゆる重心の低いサッカーのほうが好みだ。グアルディオラが「ピボーテ」として仕切っていた頃のバルセロナ。レドンドが同様に仕切っていたレアル・マドリー。マウロ・シウバが後方でデンと構えていたデポルティーボ……。マルコス・セナ率いるビジャレアルに、何となく食指が動く理由だ。サッカーには、そのほうがしっとりとした味わいがあると僕は思う。

マウロ・シウバ
ドナート
マルコス・セナ
ビジャレアル

海外サッカーの前後のコラム

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